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幼馴染の女子勇者が、始まりの街から出て行きません!  作者: コータ
最終章 幼馴染の女子勇者は、最後の最後で旅に出る!
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魔王城からの脱走

 いよいよだ。パティと魔王の戦いがもうすぐ始まる。


 僕は彼女に会いたい気持ちに駆られながらも、骸骨兵士に連れていかれしぶしぶ部屋に戻るしかなかった。もう完全に見慣れた部屋の一室を出た先には、何匹ものモンスター達が配置されているらしい。僕は大事な人質というわけか。


 幼馴染に会いたいという気持ち、そして全てにケリをつけてほしいという気持ち、あらゆる想いが脳内でぐるぐると回る。自分だけがこんなにのんびりしているワケにはいかない。ベッドに座り込んだ僕は腕を組んで必死に考える。一体どうしたらここから出れるだろうか。


 でも、下手に外に出ても凶暴なモンスター達に狙われるだけだろう。逆にパティ達の足を引っ張ってしまいかねない。頭を抱える。今はまだ静寂が支配するこの高層フロアで、結局何もできずにいる自分が恥ずかしい。


 頭の中を同じような考えが行ったり来たりする中、普段聴かない妙な音がした。トコトコと軽快な音で、ちょっとずつこちらに近づいて来ているような感じがする。僕は周りを見渡しているが、普段どおりの光景にしか見えていない。だが音はどんどん近づいていた。


「久しぶりじゃな! 同志よ。大魔法使いが助けにきたぞい」


 バルコニーからひょこっと老人の顔半分が出て来て、ニヤリと笑う。このエロジジイ感に溢れたヤラシイ笑顔は、マルコシアスさんじゃないか!


「マルコシアスさん。ど、どうして……」


「ほっほっほ! ワシにとってはこんな城壁階段のようなものよ」


 老人とは思えない軽やかな足取りで部屋に入って来たマルコシアスさんは、見たこともない赤い宝石が埋められた黒い杖を背中にしょっている。彼も相当な冒険を摘んできたんだろう。


「ワシは勇者殿のメンバーには入れんかったがな。だが、諦められるかい! ワシは陰ながらみんなを助けるべく世界を一人で周り、最後は共闘するべく馳せ参じたんじゃよ」


「ひ、一人で世界を旅したんですか? 凄い……」


「ほぼ毎回逃げていたがな! ホッホ」


 何だ、やっぱりあんま変わってないかも。でも今の状況だったら心強い助っ人だ。


「向こうに何匹も凶暴な魔物がいるんです。絶対に扉からは出れません」


「うむ。人間二人など簡単に殺されるじゃろうな。だが、ワシはここへ登ってきた。と、いうことは?」


「……降りることもできる?」


「その通り! では行くぞ。ロープをかけてあるから、お主でもすぐに降りれるわい」


「た、助かったー! 流石は大魔法使い!」


 マルコシアスさんが引っ掛けてくれたロープを伝い、ゆっくりと慎重に降りていく。先にスルスルと下っていく彼は、魔法使いよりも大道芸人のほうが向いていたのではないかと内心思ったが、年齢を考えれば胸に潜めておくべきだろう。


 しかし……下を見ると底なしに見えるというか……手元が滑ったら死は免れない。不意に僕の閉じ込められた部屋から何か声が聞こえてくる。そして徐々に騒がしくなると、ブラックトロルがバルコニーにやってきてこっちを見つけた。見つかってしまった!


「や、やべえ! アキトが逃げようとしてるぞぉ。捕まえないと」


「く、くそ! このままじゃ……」


「焦るな同志よ! もう少し降りれば城内に入り込む穴がある。そこに飛び込めば隠れつつ逃げれるはずじゃ」


 そうか。この魔王城には確かにいくつか穴が空いてる。翼竜が入ってくる為とか用途はいろいろあるみたいだけど、今回はそこに逃げ込むしかない……と考えていたら僕らの体がちょっとずつ引き上げられていく。


「逃すかぁ! お前らまとめて捕まえてやるー」


 ブラックトロルがロープを引っ張り上げているようだ。このままじゃバルコニーに戻されてしまう。時間がない中、下にいる老人が叫ぶ。


「アキトよ! このままじゃどうせ終わりじゃ。いっそ賭けに出ても良いか!?」


「賭け? 何をするんですか?」


 片腕でロープにしがみつく白髭の老人が、ブラックトロルめがけて杖を向ける。先端に埋められた宝石が輝き出し、キラキラと辺りに小さな光を散乱させていく。魔法をぶっ放す気だ。いやいや、もう少しまともな方法はないのか。


「そんなことしたら死んじゃいますよ! やめて下さい」


「男が勝利を掴む為には、一か八かの賭けが必要な時もある! 喰らえー! ドドドン!」


 ブラックトロルと僕らの丁度中間に位置するロープから、猛烈な光の玉が発生し、あっという間に大爆発を起こす。


「わあああー!?」


 巨体を揺らしながらモンスターはバルコニーから部屋へぶっ飛び、我々もまた命綱を失い宙を舞う。物凄い勢いで落下する僕ら。これで死んだらマルコシアスさんを呪ってやるとか思いつつ、猛烈な速度で落下は続く。だが恐怖の時間は唐突に終了した。


「ぐはあ!」


「うぬおおっ! ……い、イタタタ……大丈夫か、同志よ」


 僕らはどうにか穴の中に落下したらしい。元々爆発によって穴方向にぶっ飛んでいたから、当然の結果ではあったかもしれないが。背中を打ち付けて、しばらく息ができないくらい悶絶していたし、マルコシアスさんは確実に何処か怪我したのか、片膝をついてなかなか立ち上がれない。


「大丈夫ですか? まだ死ぬには早いですよ」


 僕は何とか立ち上がり、魔法使いに手を差し伸べる。彼は笑いながら応え、嘘みたいに元気な顔をした。


「ふん! ワシはまだまだ長生きするぞい。葬式はとうぶん後じゃな。同志よ、これを使うがいい」


「言っときますけど、僕は覗きの同志になったつもりはありませんよ」


「釣れないのー。せっかく仲間ができたと思ったのに。ではお主は覗きの弟子じゃな!」


「弟子はもっと嫌です!」


 剣を受け取りつつ僕は笑った。そんなことが言えるならまだまだこの人は長生きするだろう。しかし安心している間にも、事態はどんどん悪化していくような予感がした。


 この付近に長居するわけにはいかなかった。僕が逃げ出したことは既に城中に伝わっているだろう。早くパティ達と合流しなくてはいけない。真っ暗な通路を二人で歩いていると、少しずつ明るいところに出てきた。城の中枢部に近づいてしまっている。


「マズイのう。流石に人間は目立ってしまう……」


「でも、戻るわけにもいかないですよ」


 言いながら僕は迷っていた。このままじゃ確実にモンスター達に見つかってしまう。とにかく物陰に隠れつつ先に進む。だがモンスターは現れない上に、どんどんフロアは煌びやかになってくる。パーティー会場でも近くにありそうなくらいに。


 やがて僕達は大広間と思われる所に辿り着いた。不自然なほどガラガラであまりにも広い。階段を降りて下のフロアに向かおうとした時、前を歩くマルコシアスさんは僕を進ませないように右手で制した。


「何じゃこれは……極めて強力なバリアが張られておる。これは我々だけでは到底破壊できんぞ」


「バリア……ですか」


 目を凝らしてみると、うっすらと透明な壁が張られていることに気づいた。もしかしたら勇者を通さない為の仕掛けなのかもしれない。僕らには逃げ道がなくなってしまっている。


「ほほう……。人質を逃がしていたのか。全く、力だけが自慢のモンスターなどに任せるべきではないな」


 刺すような冷淡な声が背後から聞こえて、僕とマルコシアスさんは振り返って身構える。広間の中央に構える巨大な階段は、まるで地獄へ続いているような気がした。


 一人の男が階段から静かに降りてくる。今までのモンスター達とはまるで違う異質な空気が漂っていた。薄暗い階段の奥から少しずつその正体が見えてきた。


 以前アカンサスで見た煌びやかな鎧と、引き締まった長身に黒髪。だが顔が違う。顔だけが違う。その一点だけが、僕の心に突き刺さった。


 あの頬の傷……。風のように穏やかに見えた凛々しい瞳。肌の色こそモンスターのそれだったが、他はまるっきり一緒だった。僕が会いたかった、どうしても再会したかったあの人と。


「……親父……か?」


 自然と口が動いた。持っていた剣がカシャンと高い音を立てて床に転がる。まるで僕らの運命を笑っているみたいに、いやにうるさくフロア内に響き渡った。

 ありがとうございましたー!

 次回も宜しくお願いしますー(^○^)

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