第二部
荷物も何も持たず、手ぶらで廊下を歩いていた。突き当たりの壁を曲がろうとしたその時、
「ポワン」
突き当たりの目の前の壁に大きな穴が広がった。穴は、真っ暗な丸い異空間に通じる入口のようだった。
「!」
立ち止まった。
穴から、ポトンッと僕のガラケーが床に落ちた。
「……俺の、携帯……」
次は穴から人間サイズのロボット(超大型ロボットのミニサイズ版)が現れた。
ロボットは、床に落ちたガラケーを拾って僕に差し出した。
「……」
僕は呆然としたままガラケーを受け取り、開いた。
『次のミッション:宇宙服を着ろ』
「は?……」
穴の暗闇から宇宙服が現れた。目の前で宇宙服が浮いていた。
「……」
考えろ。これから何が始まる?これを着たら何が起こる?
『早く着ろ』
と携帯に文字が表示されると同時に僕の眉間に銃が突き付けられた。
「……くそ……。着ればいいんだろ?」
考える暇など与えられなかった。そうやって僕はXに少しずつ飼い慣らされていたのだろうか?
銃が消えると僕は宇宙服を手に取り、身に着け始めた。
宇宙服を身に着けた。ガラケーが目の前に浮上し、
『そのロボットについていけ』
ヘルメットのフェイスカバー越しにガラケーを見、ロボットを見た。
ロボットは、こっちへ来いと手で合図しているようだった。そして、ロボットは壁の穴の暗闇の中に飛び込んだ。僕も壁の穴へと歩いた。
「宇宙服重っ!」
だが歩き出したからにはもう止められなかった。本能が、体をそうさせたのだ。
本能に動かされるままに、壁の穴の暗闇へとジャンプした。
ここは間違いなく、宇宙だ。俺は直感的にそう思った。
ロボットは僕の前を背中の噴射機から青い炎を出して進んでいた。僕はロボットの後ろを見えない力に押されて浮遊させられていた。
ロボットが向かう先に、黒光りする巨大な物体が現れた。それは注射器のように縦に長く、何十メートルとある、宇宙巨大ビーム砲だった。
「あ……これ、テレビで見たことあるやつ……」
宇宙巨大ビーム砲の先端は青く輝く地球に向いていた。まるで地球を刺そうとしているかのようだった。実際に、このビーム砲は北朝鮮へと照準を定めようとしていた。ロボットは、宇宙巨大ビーム砲の中心部に近づいていった。
ロボットが噴射機から青い炎を出すのをやめて、止まった。そして、僕に向かって宇宙巨大ビーム砲の表面の何かを指し示した。
「?……」
そこには、火災時の非常用ベルのボタンのような、透明なふたの中に赤いボタンがあった。宇宙服のヘルメットのフェイスカバーに黄色い文字が浮かんだ。
『そのスイッチを押せ』
「……押したら、どうなる?……」
もう何も考えられなかった。想像することすら、できない域に達していた。
前の文字が消えて、新たな文字が浮かんだ。
『押さなかったらお前はこうなる』
文字が消え、フェイスカバーに映像が映し出された。
宇宙服のヘルメットと中の僕の顔が、鏡のようにフェイスカバーに映った。そこへ、ヘルメットに向かって小さな石が勢いよく飛んできて、バリンッと映像の中のフェイスカバーを割り、パンッと僕の顔が、頭が、ヘルメットが粉々にはじけ飛んだ。映像がもう一度、繰り返し始めて、
「やめろ!」
恐怖に襲われて叫び声を上げた。映像が、消えた。
過呼吸になった。宇宙服の酸素濃度が徐々に低くなった。
『10秒以内に押せ』
ロボットは赤いボタンの透明なふたを外した。
『10、9、8、7』
次々と秒数が一秒ごとに大きくフェイスカバーに映し出され、カウントダウンされていった。
「あー!」
精神状態はもう、限界だった。何も考えられず、右手を伸ばして目の前の赤いボタンをポチッと押した。
何も起こらなかった。不気味なほど静かで、空虚な時間が流れた。
深く息を吸って、
「ふぅ……」
息を吐いた。が、一安心する前に、隣のロボットに異変が起こった。
ロボットは、僕の方を向いて、胸の中心に青い光を集めていた。
「え……まさか攻撃じゃ……」
静止していた脳が動き出した。確か、テレビで見た超大型ロボットはこんな攻撃をしていた気がする。
横に、丸く大きな異空間への出口が広がった。出口をチラッと見て、またロボットを見、
「……死ぬか、ゲームを続けるかってか……」
ロボットの胸の部分に集まる青い光はどんどん膨らんでいた。
「……死にたくない!」
本音が出た。ついに、本音が出てしまった。このまま死ぬよりはゲームを続けた方がまだましだった。
異空間への出口へと飛び込んだ。出口が閉じられ、僕が消えた途端、
「ビュン!」とロボットの胸の中心から青いビームが宇宙に向けて一筋発射された。