プロローグ
これから、ちょっとだけ僕の過去の話をしようと思う。
ここに記すのは、全て、後に述べる僕と、もう一人、もうこの世にはいない者との力によって判明した過去の僕、世界、そしてあの惨事を引き起こした裏と表の事実だ。全ての人への追悼を込めて、語らせてもらう。
時は、二一九九年。二十二世紀末の東京の高層ビル群の上空にはその当時、未来の自動車と呼ばれていたものが飛んでいた。流線形の自動車はまるで、夕方の空、空中にはりめぐらされた目に見えない車道を周回するように列をなしてゆっくりと飛行しているようだった。その中心、高層ビル群の中心に頭一つ抜き出た黒光りする巨大なタワー、ウルトラロボットタワーが建っていた。
ビルの街頭ビジョンには、女性アナウンサーとその横に、超大型ロボットが何機も並んだ後ろ姿の映像が映っていた。
「日本とアメリカを中心とする多国籍軍が、今日午後四時、イスラム国、ISを撲滅するため、本格的な戦闘を開始しました」
二十二世紀末のその頃、新宿のビル街の上空を数台の未来の自動車がゆっくり飛行していた。
ある車の中。後部座席のベビーシートにミラトというまだ幼い少年が座っていた。隣で、ミラトの姉、カヤが座っており、窓の外を眺めていた。
「あ!ウルトラロボットタワーだ!」
ミラトはカヤの見ている窓の方を指さした。
「そうだね。……大きいね」
ミラトは左手に持ったコーンの上のアイスをなめて
「僕はね、大きくなったら、天才ゲーマーになって、あのタワーで超大型ロボットを操縦する戦士になるんだー」
ミラトの父、雅敦が運転席から、
「それはいい夢だな、ミラト。パパ期待しちゃうぞ!」
運転席のテレビ。超大型ロボットが手前に三機、巨大機械獣が奥に一体映っていた。
男のアナウンサーが熱狂的な実況中継をしていた。
「日本軍のリーダー、KAI(海)が大活躍です!イスラム国の兵器、巨大機械獣は残すところあと一体。ついに、ISの撲滅が、テロの脅威の撲滅が、目前に迫ってきています!」
ミラト、膝の上のゲーム機(PSPに似たもの)をONにした。ゲーム機の画面が、
飛び出してきて、ミラトの目の前に現れた。
「僕も、ゲームで敵を倒す!」
とゲーム機のボタンを激しく押し始めた。助手席からミラトの母、碧が、
「ミラト、ゲームもたいがいにしなよー」
注意した。
「いいんだよ碧。今はゲームの時代だ。現に、ゲームの大会の世界王者、KAI(海)を中心とする天才ゲーマーたちが日本軍のトップを走る、超大型ロボットの操縦者となっている」
と興奮気味に言った雅敦。
「そうだけど……。でも、恐ろしくない?ゲーム感覚で犯罪や戦争だって起こす可能性があるし、今、日本軍がやっているのも戦争ゲームに見えなくもないじゃん」
碧は深刻な表情でそう言った。
「いや、そんなことはない。これは、立派な、世界平和のために日本軍がやっているんだ」
テレビの画面、切り換わり、女性アナウンサーとその横に、別の映像が映し出された。
「次のニュースです。対北朝鮮用に日米が共同開発する、宇宙巨大ビーム砲が完成間近の模様です」
後部座席のミラト、右手でゲーム機のボタンを連打しながら左手でアイスをなめ、
「まじぃ。もう、このアイスいらねえ」
窓を開けてポイッとコーンに載ったアイスを丸ごと外に投げ捨てた。