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オイリーガール  作者: しきゐこづゑ
春、それぞれの飛翔の最終章
50/55

第50話 レディーステディーゴー!

 観客ばかりかドライバー自身もサーキット走行を愉しめる絶妙な速度配分で先導演出するプロドライバー運転の904 カレラGTS。そのペースメイクで始まったオールドタイマーのパレードラン……ではあったが、


 2週目に差し掛かったところで、どうやら4〜5番目を走る臙脂色の356Bにトラブルが発生した模様で、その後続車列のペースがガクン!と落ちたのだ。ドライバーはなんとかランを継続しようと悪戦苦闘するが……もう、以降の隊列はのらりくらりの渋滞走行の様相を呈し始めて場内アナウンスが何か言ってるが窓を閉めきってる上に旧型車達のエンジン・走行音が余りにも煩さ過ぎるからよく聞こえない。


 周回して何となく雰囲気やペースも掴めたし、折角気分もあがって来たのにちょっとガックリだよ。追い抜き追い越しは勿論禁止のパレード走行だから、残念ながらどうにもならんね?


 ハァ〜と嘆息をひとつ漏らした。


 と、その時だった!


 痺れを切らしたかの如くアウト方向から一台がぐぅんと追い越して行った!


 左側の才子の席から直ぐにドライバーが見える! 珍しい右ハンドルの英国若しくは輸入仕様ナロークーペ!鎮座してたのはナンと駐車場でお話ししてたヨボヨボっちいおじいさん!ではないか? くわっと鬼気迫る表情で前方一点を見つめ一気に才子と前方のシゲルコの914を抜いていく。


 呆気にとられた私と菜々P、

「え〜〜??」

「なに〜?? あのじい様? そんなん有り〜〜?」


 訳が判らない感じで他の後続車も"いいのか?"と追随しどんどん前方を目指す、次の瞬間もう団子状態になったヴィンテージポルシェ達!


「あっはっはっは!なんなのこれ〜?この状況?じい様も!もう最高〜!」


 菜々緒はスカートも気にせず長い脚をバタバタさせながら腹を抱えて大笑いしてる。外ではアナウンスが盛んに何かを言ってるが聞こえない、少し窓を開けてやると……


 "列に戻ってくださ〜い、追い越し走行は危険で〜す、所定の順序をキープして列に戻ってくださ〜い"


 この状況で、一体どうやって順番キープせぇ?っちゅうんや?状況は混沌さを増すばかりで最早、本当に団子レースみたいな様相を呈してきて収拾がつかなくなってきたから、それでもまだ冷静を装うアナウンスは少しだけスパイスを塗して再び控え目に呼びかけ続けた、


 "ヴィンテージポルシェドライバーの皆さ〜ん、淑女紳士のポルシェ精神に立ち返ってどうか冷静に〜、スピードを落とし一列になって下さ〜い!聞こえますか〜?"


 そのアナウンスを聞いた菜々緒は、もう耐えきれなくなってバタバタから更にフロアをドスドスドス!と踏み鳴らしながら


「なんだ? '淑女紳士のポルシェ精神'って?あぁっはっはっはっはっ...…もうお腹痛い!こっちは女子高生で乱してんのはじい様でしょ〜?」


「……や、やめろ!底抜けるやろ?」


「何? 底抜けるの?このクルマ?いぃっひっひっひ〜!駄目!もう〜勘弁して!」


 隣の菜々緒はもう完全にツボに嵌ってしまった様で綺麗な顔を苦悶に歪めて爆笑が止まらない。が、更にまた一台、才子のポルシェを追い越してゆくのを認めると急に表情を真顔に豹変させ絶叫した!


「む?猪口才ね?……才っ!負けるな!行っけ〜!ぶちかませっ!」


 もう知らん!私は思い切りアクセルを踏み加速してその911Sに続き、前方のシゲルコの914を捉え躱した。まさか私達迄も?と呆気にとられるシゲルコの、少し垂れ気味のまん丸い三白眼を更に丸くしてポカンと口を開いた表情が目に飛び込んできて、瞬間、菜々緒と顔を見合わせてブッ!と吹き出しそうになった所に、遂に堪忍袋の緒が切れたのか? 小学校の運動会で来賓・父兄居るにも関わらず厳し目の体育教師がついいつもの調子でキツ目の……やっちまった系お叱りアナウンスの如き、


 "あぁ〜、そこっ!危ないっ!ぶつかる!もう、スピード落としてって、並べって言ってるでしょ!ええ大人がいい加減にしてっ!コラッ!抜くなっつってんでしょ、糞オヤヂども!……あっ!?"


 ブチッ……


 思わずそんな女性ナレーターの激昂した本音怒号が轟いて切れたものだから、その周回が終わってホームストレートに強制的に一旦再整列させられる=まるでイタズラ生徒達をみんなの前(スタンドはもうやんやの喝采と笑顔に溢れ)で晒し立たせる様に、まで文字通り腹筋が捩れるほど涙ボロボロ零しながら菜々緒と私は車内で死ぬ程笑い転げた。



 ……


 300R辺りからそのスタンド前のストレート迄のそう長くはないほんの1〜2分の出来事。


 1時間位ずっと笑いっ放しだったかの感覚。サーキットって初めての非日常的空間での緊張と興奮、そして思わぬハプニング。仕切り直しの……今度は大人しく従順なパレードランを粛々と挙行し駐車場に戻った私達出走者に主催者から少々のお小言と、そしてアナウンスに対する謝罪があってコウベを垂れる淑女紳士のおじさん達の影でクックックとまた思い出し笑いを堪え肩を震わせた。



 レセプションに戻る時、例のヨボヨボっちいおじいさんがシレと私達に声を掛けていった。


「お嬢さん達、いやぁ楽しかったですの〜?年甲斐もなく思わず興奮してしまいましたよ。……途中チト危なかったですがの」


 私達は一様に心の中で"その元凶はあんたや〜"と呟き、ヨボヨボおじいさんが行ってしまうと三度みたび爆笑の渦に呑み込まれた。





*おことわり

この展開: パレードランで規定を無視して無謀な追い越し走行をしたり、アナウンスで暴言を吐いたりする様な行為は当然あり得ない話であり、その他プログラム/設定も脚色したものでフィクションです。ディーラーさん主催の走行会は参加者さんを含めまして須らく素晴らしく、安全で楽しいイベントであります事を最後にお伝えし第49話を終えたいと思います。


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