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オイリーガール  作者: しきゐこづゑ
もしかして機械フェチ?進路悩める第3章
34/55

第34話 5分55秒のリリーマルレーン

「才ちゃんはぁ、きっとぉ自分で気付いてないだけだよ……」



 そのシゲルコの横顔はまさに小悪魔みたいでゾクッとした。まったく男子やおじさん共がかしずくのもよく理解出来る何かを秘めてる。それは女子の中枢をも溶かしかねないフェロモンか何かの持って生まれた人体媚薬の類いか?心なしか口調もトーンも低く平素と違う様な?……と同時にその、何か心の中を見透かされてる感が半端ないんだけど? さっきの呟きの事もあったから一呼吸置いてちょっと恐る恐る訊いてみる


「なにに?」


「ふふふ」


 っと思わせ振りな微笑を浮かべなにも答えないから私もそれ以上は……何か直感的に踏み込まなかった。



 初心者なりに此処までエモーショナルに走ってきた914は、'峠の駐車場'に滑り込むと昂揚した空冷発動機の火を落とした。ふ〜っと一伸びしたシゲルコは「はぁあっ疲れたぁ」と漏らして助手席の私の肩にふ……と凭れ掛かってきて目を瞑った。


 ちょっとドキっとしたが、わざとらしく戯けて払い除けるのも変だと思ったし、暫くこのままで奇妙な時間が過ぎてゆくのに任せる事にする。


 リーガルリリーは……



 'ぼくたちの進む道は孤独だって笑えるかな’♪



 …と歌った。長いリフレインを繰り返しその曲はゆっくりゆっくりとフェードアウトして、やがて静寂の車内は後方からのアイドリング音だけになった。トクントクンと互いの心臓の音も聞こえそう。そんな諸々の事象が消え入ってしまいそうな永遠とも思える沈黙……首を傾け顔を少し近づけてきたシゲルコのふわぁとした得も言われぬ甘い香り、そしてその蕩ける様なフェロモンの類いに包まれ頭がぼぅっとしてきて、そして呑まれそう……"ぁあ、たぶん、だめ” 瞼がおりた。から判らないけど気配恐らくあと5cm


 その刹那、


 ヴォオオオオロ〜ム!


 っと乾いた甲高い音を響かせて赤い車が飛び込んで来た!新たに貼られたと思しきサイドの"PORSCHE"の懐古調ボジティヴ・デカールも勇ましい


 菜々緒のボクスタースパイダー!!


 ギュン!とオレンジの車の右隣に勢いよく急停車した。


 黒いキャップを深々と被り、掛けたサングラスを鼻のところから少しずらしてマジマジと隣の車内を覗き込む女はパワーウィンドウを下ろして窓の所で組んだ手の上に顎を乗せて呟いた。


「あ〜らあら、お邪魔だったかしら?」


 顔の直ぐ傍から溜息とも舌打ちともつかない音が聞こえ、ゆっくり私の肩と頬の辺りから頭をもたげたシゲルコはいつものぶりっ子口調に戻って「誰ぁれ?」って尋ねた。


 私、救われた? 将又はたまた、邪魔された?


 信じ難い事にそんな自問にもちょっと自答窮す始末で、ソイツに意見求めたけど……珍しく押し黙った儘だったもんだから、慌ててぶるんぶるん!っと首を何度か振って"その前の"我に返った私は前者を選択、


 "やっばぁ〜危うく落とされるトコやった!お、恐るべしシゲルコ!"……と被害者面して心中繕うと、ソイツは無言のまま肩をすぼめた。


 シゲルコには、幼馴染で聖マリに通うおんなじ高三だよって、まだドキドキしてる鼓動を悟られないように極力平静を装ってそう応えた。すると不機嫌な小悪魔は、


「へ〜そうなんだぁ〜?」とだけ。


 私はキコキコと窓を開けて菜々緒に「やぁ」と直角に手を挙げて訳のわからない会釈をすると


「なによ?ヤァって。才、あんた目泳いでるわよ?なに狼狽たえてるのよ、分かり易いわねまったく」


 ……だめだちょんバレや。'未遂'にせよ幼馴染みに見られてはいけないものを見られてしまって、ズーンと落ち込む私を余所にシゲルコはその私越しに……綺麗な顔立ちの、高校生離れした女に暫しマジマジと視線釘付けにしたあと、表情をつくっていつもに増したあの猫撫で口調で簡潔に挨拶した。


 ぶかぶかのスウェットにぴったりした綺麗な脚のラインが強調されるジャージにスニーカー、いずれも(多分、高価たかそうなブランドもので……)モノトーンで統一された休日モデル然としたでたちの菜々緒はスパイダーからチャッ!と薄いダウンジャケットを手にその痩身高身長を顕したかと思うと、腰をくにっと折って914の窓越しに両手両肘をペタンとついて私越しに、


「城之内菜々緒。よろしく。あ、言っとくけど才《psy》口説いていいのは私だけだからね?」


「な……!?」


私はボッと頬を点火、狼狽えて首が右往左往、菜々緒とシゲルコを往き来した。


「ばかね、何本気にしてんのよ?冗談に決まってんでしょ、私そのケないわよ!お邪魔なら帰るし、なんか相談したい事あるんでしょ?なら繁子シゲコさんも一緒にどお?」


 こ、この唯我独尊女は相変わらず…声掛けてきたのは其方そっちやろ?と聊か呆れつつもさてどうしたもんか?この場をどう穏便に取り纏めるか?と一瞬思案する弱っちい獅子座。が、予想外にシゲルコは才子越しに身を乗り出して菜々緒に向かって


「うんうん!そうしましょ〜」


 と眼をキラキラさせ満面の笑みを浮かべ応えた。き、気不味くないのか??



 超局地的ローカルアイドルと唯我独尊最強女。この怪獣どもの思考回路は全く凡人には理解出来ん。兎に角、寒かったけど私たちは上着を着込んで自販機で暖かい缶紅茶を買ってから見晴らしの良いテーブル、ベンチの方でお喋りすることとした……




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