表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凪の歌  作者: 仙葉康大
最終章
50/52

ありがとう

 中盤は皆、細かいミスをした。立ち位置がずれていたり、セリフまでのタメが短かったり、足音を立てるべきでないところで足音を立てたり。決定的なミスはなかったので、助かった。でも、していいミスなんてない。明日は同じミスは絶対しない。絶対だ。


 終盤、舞台に役者が勢ぞろいした。結婚式のシーンだ。


 まず花婿である澪先輩が、船上のバージンロードを歩いて行く。少し間隔を開けて、私と果矢が歩き出す。果矢は結婚指輪を手の平に載せている。私は、バスケットに入れた金貨を右へ左へ()きながら進む。最後に、花嫁である樹理先輩が、目を閉じたままバージンロードを抜けて、澪先輩のもとまで来た。


 立会人は、熱美と怜夏だ。


「ベリオット・アルダンテ。あなたは、エリーゼ・カストロフィーに永遠の愛を誓いますか?」

「誓おう」

「エリーゼ・カストロフィー。あなたは、ベリオット・アルダンテに永遠の愛を誓いますか?」

「ええ。誓うわ」

「では、指輪の交換を」


 花婿と花嫁は果矢から指輪を受け取ると、お互いの指へはめた。


「他にすることは?」


 澪先輩が尋ねた。樹理先輩がはめたばかりの指輪で自身の唇をなぞった。


「大事なことを忘れてない?」

「ああ。今思い出した」


 澪先輩が樹理先輩を抱きしめて、キスをする。うわあ。客席からは見えない角度だけど、ほんとにしてる。え? ええ? 二人ってそういう?


 誓いのキスをしてストーリーの部分は終了した。舞台後方の幕が開いて、大階段が現れる。いよいよ、歌劇の締めくくり、フィナーレだ。


 他の役者さんたちが前方で踊ってくれている間に、海星組の私達六人は、高さ四、二九メートル、横幅十メートル以上、全二十六段の大階段を踊りながら、歌いながら、登っていく。一番上まで登りつめると、横並びのまま、曲のテンポに合わせて降りて行く。決して足元を見てはならない。目線は客席へ向けたまま。


 私はこのとき初めて、ホール全体を皮膚で感じた。広い。


 舞台に足が着いてからは、二人一組になって踊る。私の最初の相手は怜夏だ。私のライバル。そう言えば、最初は苗字呼びだったね。夜の公園で一緒に歌った校歌、すごく気持ちよかった。怜夏が入学式で「トップに立つ」とか言わなかったら、C組はできてなかったと思う。ありがとう。


 踊る相手が替わる。熱美だ。いつも明るい熱美は、C組の精神的支柱だ。劇コンでは、私も果矢も怜夏も熱美を頼ってしまった。たくさん頼ったよ。なのに熱美は嫌な顔一つせず、そして、自分の弱音は見せないで、本番を成功に導いてくれた。ありがとう。


 続いての相手は、澪先輩だ。一緒に踊ると、客席からの視線が伝わって来る。大多数のお客様はトップスターを観てるんだ。実は、初めて会った時から、澪先輩は私のスターなんです。何度も上級生から守ってくれたこと、忘れません。ありがとうございました。


 次に私の手を取ったのは、樹理先輩だった。普段はいつもふざけているけど、歌はほんとにすごい。すごすぎて、私と怜夏は吐いちゃったもん。今日の本番前も、先輩が乱闘を引き起こしてくれたおかげで、ビビリが吹き飛びました。ありがとうございました。


 そして最後は、果矢だ。思うことは一つだけ。あなたに会えてよかった。ありがとう。


 客席前方へ視線を向ける。凛さんがいた。桜水へ来いと言ってくれて、私を必要としてくれて、ありがとうございました。


 彦おじさんと雛ばあもすぐ見つけることができた。ありがとうじゃ足りないけど、ありがとう。


 今日観に来てくださったすべてのお客様、ありがとうございました。そう強く思いながら、フィナーレ最後のお辞儀をする。


 まだ一つありがとうが残っている。

 お母さんへのありがとうだ。でもこれは、いつか直接、言えたらいいな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ