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凪の歌  作者: 仙葉康大
最終章
45/52

海星組

 (うわさ)が三つ流れていた。果矢についての噂と、私についての噂と、あともう一つ。桜水歌劇団に新しい組ができるという噂だ。


「ねえ、あの噂本当なの?」

「ちょっと答えなさいよ」

「止まりなさい」


 上級生の質問や命令を無視して、果矢と私は廊下を進む。すれ違う人が私たちを見て、何かささやく。


「果矢、ついて来てるよ」

「気にするな。行くぞ」


 果矢が私の手を取った。そのまま早足でC組の教室に入る。


「新しい組ができるっていうんがほんとなら、次は何の動物やろか?」

(くじら)海月(くらげ)海豚(いるか)海胆(うに)(さめ)といった、これまでの傾向を考えたら、次は海鼠(なまこ)組でしょう。間違いありません」

「私は(しゃち)だと思うなあ」

「はいはーい。海象(せいうち)だよ、海象。あ、凪ちゃん、果矢ちゃん、おかえりー」


 澪先輩と樹理先輩が来ていた。二人がいるのを見て、私と果矢の後をついて来た上級生はどこかへ行ってしまった。


「何でいるんすか?」

「陸井先生に呼び出されたんだ」

「今、新しい組の名前を予想してたんやけど、凪と果矢は何が来る思う?」


 私と果矢は顔を見合わせる。


「どうしたのですか?」

「いや、私や果矢に関する噂のこと、訊いてこないんだって思って」

「噂は噂です」

「せやな。凪は凪で、果矢は果矢やし」

「他の生徒がうるさかったら、すぐ私に言ってくれていい。追い払うから」

「そうだそうだー。凪ちゃんと果矢ちゃんをいじめる奴は、この私、樹理ちゃんが許さないんだからねっ」


 隠し事をしていた私を責めもしない。私を私として扱ってくれる。この人達も、彦おじさんや雛ばあと同じなのだ。お母さんと会ったことがなくても、私はとても恵まれている。


 この人達になら言える。


「私、青架那美の娘なの」

「凪。大丈夫ですか? 無理して言わなくてもいいのですよ?」

「みんなには知っておいて欲しいの。噂では、親のコネを利用して入学したとか、C組の生意気が許されているのは、お母さんがバックにいるからだとか、色々言われてる。でも、もちろん、コネなんて使ってないし、C組のバックには誰もいない。そもそも私、お母さんに会ったことがないの」


 みんなの表情が固くなる。


「でも、いつか会えるとは信じてる。えっと、以上です。あ、私、先輩方がいたのにタメ口で話してましたね。すみません」

「いいんだよ。話してくれてありがとう」


 澪先輩はそう言ってくれた。樹理先輩は私を抱き締めてくれた。


「あ、凪を離せよ」

「いやだよーっだ。凪ちゃんはもう私のものだもんねー」

「てめえ」

「何してる? 座れ座れ」


 凛さんが声を張り上げながら入って来た。


「校内で色々な噂が流れているが、それと関連してお前らに連絡事項がある。よーく聞け」


 口元が笑っている。いいことだろうか?


「その前にちょっといいすか?」

「何だ、果矢?」

「凪が告白したから、ついでに言っとくけど、私が陸井凛の(めい)っていう噂、あれ、ほんとだから。な、叔母さん」

「ああ。事実だな」

「あははー。確かに二人似てるー」


 樹理先輩が椅子から笑い転げた。


「まあ、何となく察しはついとったで」


 熱美だけじゃない。怜夏も澪先輩も苦笑している。


「なんか、みんな、凪のときと反応違くねーか? なあ?」

「姪、黙れ。いいから聞け。重大発表がある」


 凛さんが教壇に手をついて、私たち六人を見下ろす。


「新しい組が創設される。その名も海星(ひとで)組だ」


 へー。


「反応が薄いな」

「だってウチら、まだ正式な団員やないですやん? 音楽学校卒業するまでは組に所属できんから、リアクションもしょぼくなりますて」


 凛さんが唇の端を吊り上げる。


「なら、大きなリアクションを取らせてやる。海星組の団員は、ここにいる六人だ」

「なんやてっ」


 熱美の声が一番大きかったけど、私も声を出してしまった。嘘でしょ。


「待ってや。なんでや? 音楽学校の生徒が劇団員になってええの? てか、他の組がしてるように桜水大劇場で公演とかやるん? そもそも、なんで新しい組を作るんや? すでに五つも組があるのに、これ以上増やしたって意味があるとは思えん。そこらへんどうなんや?」


「お前、よく口が回るなあ。いいか。新しい組を作ろうって動きは三年前ぐらいからあったんだよ。でも、すでに五組もあるから、これ以上は必要ないって意見も当然あった。で、新しい組を他の五組と差別化するにはどうすればいいか、考えた結果、音楽学校の生徒を使おうってことになった。でも、客の前に出せるだけの実力を持った生徒なんてそういない。企画を諦めかけた去年、澪と樹理が入学してきた。この二人ならいけると思った。さらに今年、生意気な問題児四人が入学。そしてついに、先日の劇コンを見に来た偉い人が、お前らの歌劇を観て、やれると判断し、海星組創設にうなずいたってわけだ」


 本当なんだ。海星組、嘘じゃない。


「じゃあ、海星組のトップスターとトップ娘役を発表する」


 私はつばを飲み込んだ。もしトップ娘役になれたら、お母さんが見に来てくれる可能性が高まる。


「トップスターは澪。トップ娘役は樹理」

 異論はあるはずもなかった。


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