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凪の歌  作者: 仙葉康大
第五章
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ミス

 熱美は嘘つきだ。


 冒頭は上手くいった。でも、お祭り前日、生贄候補になった妖精の王子とその恋人が森の木の枝に並んで座り、月を見上げながら話すシーンで怜夏が、


「私恐いわ。あなたを失ってしまうのが。どうすればいいの? そうだわ。いっしょ、にげだしち」


 噛んだ。「そうだわ。いっそ、逃げだしてしまいましょう」が正しいセリフだ。


「かわいそうに。死への恐怖で舌がうまく動かせないかい? でも、君の気持ちは伝わったよ。一緒に逃げようっていうんだろう? 残念だが、それはできない」


 即、熱美がアドリブでフォローした。客席も静かなままだった。


 次やらかしたのは、果矢だった。私とのデュエットで音を外した。動揺したのか、テンポが速くなっていく。私は果矢に抱きつき、観客に見えない角度で背中を叩いて、正しいテンポを伝えた。


 私だってミスした。生贄候補の妖精が決闘前に神へ舞を披露するシーンで、果矢とぶつかってしまった。果矢はびくともしなかったけど、私はこけそうになって、でも怜夏が、まるで最初からダンスの振り付けだったかのように、私の手を引っ張ってくれた。フォローの仕方があまりに自然だったので、観客からは拍手がわいたほどだ。


 私も果矢も怜夏もミスしたから、最後、決闘のシーンはもうどうにでもなれって感じで、半ばやけくそになって、ミスを恐れず全力を出した。


 まず私と怜夏の歌で妖精の世界をイメージした。小さな花に朝露が乗っている。露の中に妖精の隠れ里はあり、そこでは色のついた風が吹いている。泉から湧き出る水だけを飲んで、妖精は暮らしている。


 決闘の舞台は、里の隅っこにある、円形の闘技場だ。闘技場全体に(つた)()っており、客席は朽ちていて座れやしない。座る必要はないのだ。観に来た妖精たちは、羽を動かして空中に留まっている。十指を組んで祈りながら、生贄候補の決闘を見守っている。


 テンポの速いダンスで決闘のシーンを再現する。小道具は剣だ。


「兄さん。戦いたくない」

「何を甘えたことを言っている。その子を守りたいなら、戦え。兄は全力で相手をしてやる」


 双子の王子が戦うのを恋人たちは見ているだけ。


 果矢が剣を落とした。私も加勢する。熱美の攻撃をしのいでいる間に、果矢が剣を拾い、数の有利で押し返す。怜夏も動いた。二対二だ。果矢と怜夏の剣戟は速く強く、熱美はフェイントが上手い。私は悲鳴を上げながら、応戦する。悲鳴は歌に変わる。果矢も歌い始めると、私達が優勢になる。


「ヤアッ」


 熱美の声で、歌が途切れた。すかさず怜夏が歌い始め、熱美も声を重ねる。私と果矢は下手(しもて)へと押し返される。が、ハケない。踏みとどまり、ターンで二人を抜くと、またステージの中央に戻り剣を交える。


 群舞は続く。フルコーラスが最高潮に達する。


 高い金属音が響いた。


 剣が折れた。果矢と熱美、両方の。私と怜夏はそれぞれのパートナーへ剣を投げる。キャッチした二人が絶叫しながら、互いに相手へと一歩踏み出す。次の瞬間、二人の背中から剣が飛び出た。


 私と怜夏は二人に駆け寄り、死んでいるのを確認すると、恋人の胸から剣を引き抜き、何の躊躇(ためら)いもなく自身の胸に突き刺し、最愛の人に体を重ねて、眠りについた。


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