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凪の歌  作者: 仙葉康大
第五章
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不文律

 エントリー手続きも終えて、誰がどの役をやるかも決めて、「本読み」という台本を読む稽古をしていたら、上級生がなだれこんできた。


「うぜえのが来たぞ、おい」


 本読みを邪魔されて、果矢が顔をしかめる。


「聞いたわよ。劇コンにエントリーしたらしいじゃない。どういうこと? 不文律を知らなかったなんて言わせないわよ」


 聞いたわよって、どこで聞いたんだろう? ほんと、この学校、噂の回る速さが尋常じゃない。


「エントリー、キャンセルしてきなさい。今ならまだ間に合うわ」

「先輩先輩。ウチらが出ること、そない気に入りません?」

「当たり前でしょっ。何考えてるのっ」

「でも劇コンって、ウチらを真正面から叩き潰すいい機会やと思いますけど」

「熱美。この人達にそんな実力があるわけないでしょう」

「だからキャンセルさせようとしてんだろ。察してやれよ」


 怜夏と果矢の発言を聞いて、先輩たちがぶち切れた。果矢の台本をつかみ、奪い取ろうとした。私の方にも来て手を伸ばしてきた。私は台本を胸元に抱きしめる。絶対、離すもんか。司書さんが選んでくれた台本なんだ。


 みんな、何かしら叫んでいた。

 誰かが騒ぎを聞きつけて駆けつけてくれることを願いながら、必死で粘る。


「おい、何してる?」


 全員が止まる。この人の声を聴いたら、誰でも止まる。トップスターだった人の声だから。


「ここの担任は私なんだが、どういうことだ?」


 凛さんはあくまで静かに尋ねた。でも目がおっかない。上級生が震え始める。私だって震えてる。


「一歩間違えば、暴力に発展しかねない状況だったな?」


 声が出せない。凛さんが空気を支配している。


「腕力で台本を取り上げようとする行為はどうなんだ? 何だ? 反論があるなら、言ってみろ。発言を許す」


 全然許してない。何か言った奴から殺す、みたいな目をしてるよ。


「反論がないなら出て行け。次、私の生徒に手を出してみろ。退学程度じゃ済まさない」


 うつむいたまま歩き出した上級生の背中へ、凛さんが言葉を続ける。


「でも、口での指導は大歓迎だし、とてもありがたい。こいつらが生意気なのは事実だ。何か気づいたことがあったら言ってやってくれ。今日はすまなかった。ありがとう」


 上級生は一人ずつ凛さんに一礼して、出ていった。


「さて、くそ生意気な問題児諸君」


 私たちを見渡した。


「怪我は?」


 私も果矢も熱美も怜夏も首を振る。


「台本は?」


 四人とも台本を上げて見せる。


「よし。練習に戻れ。いや、放課後だから自由だな。勝手にしろ」


 私達は勝手に凛さんにお礼を言った。


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