不文律
エントリー手続きも終えて、誰がどの役をやるかも決めて、「本読み」という台本を読む稽古をしていたら、上級生がなだれこんできた。
「うぜえのが来たぞ、おい」
本読みを邪魔されて、果矢が顔をしかめる。
「聞いたわよ。劇コンにエントリーしたらしいじゃない。どういうこと? 不文律を知らなかったなんて言わせないわよ」
聞いたわよって、どこで聞いたんだろう? ほんと、この学校、噂の回る速さが尋常じゃない。
「エントリー、キャンセルしてきなさい。今ならまだ間に合うわ」
「先輩先輩。ウチらが出ること、そない気に入りません?」
「当たり前でしょっ。何考えてるのっ」
「でも劇コンって、ウチらを真正面から叩き潰すいい機会やと思いますけど」
「熱美。この人達にそんな実力があるわけないでしょう」
「だからキャンセルさせようとしてんだろ。察してやれよ」
怜夏と果矢の発言を聞いて、先輩たちがぶち切れた。果矢の台本をつかみ、奪い取ろうとした。私の方にも来て手を伸ばしてきた。私は台本を胸元に抱きしめる。絶対、離すもんか。司書さんが選んでくれた台本なんだ。
みんな、何かしら叫んでいた。
誰かが騒ぎを聞きつけて駆けつけてくれることを願いながら、必死で粘る。
「おい、何してる?」
全員が止まる。この人の声を聴いたら、誰でも止まる。トップスターだった人の声だから。
「ここの担任は私なんだが、どういうことだ?」
凛さんはあくまで静かに尋ねた。でも目がおっかない。上級生が震え始める。私だって震えてる。
「一歩間違えば、暴力に発展しかねない状況だったな?」
声が出せない。凛さんが空気を支配している。
「腕力で台本を取り上げようとする行為はどうなんだ? 何だ? 反論があるなら、言ってみろ。発言を許す」
全然許してない。何か言った奴から殺す、みたいな目をしてるよ。
「反論がないなら出て行け。次、私の生徒に手を出してみろ。退学程度じゃ済まさない」
うつむいたまま歩き出した上級生の背中へ、凛さんが言葉を続ける。
「でも、口での指導は大歓迎だし、とてもありがたい。こいつらが生意気なのは事実だ。何か気づいたことがあったら言ってやってくれ。今日はすまなかった。ありがとう」
上級生は一人ずつ凛さんに一礼して、出ていった。
「さて、くそ生意気な問題児諸君」
私たちを見渡した。
「怪我は?」
私も果矢も熱美も怜夏も首を振る。
「台本は?」
四人とも台本を上げて見せる。
「よし。練習に戻れ。いや、放課後だから自由だな。勝手にしろ」
私達は勝手に凛さんにお礼を言った。




