校内歌劇コンクール
「気が緩んでるっ」
四月も終わろうとしていたある日、凛さんが机を叩いた。
「お前ら、表情も緩いっ。何もかも緩いっ」
「学校にも授業にも慣れてきて、余裕が出てきただけだろ。悪いことじゃねーと思うけど?」
「果矢、タメ口きかないの」
「ごめんあそばせ。次からは気をつけます。凪さん、ご忠告どうも」
演劇の授業で私や怜夏が演じた、中世のお姫様っぽく果矢が答えた。熱美は大声で笑い、私は吹きだし、怜夏は口を押えて笑いを漏らした。
「お・ま・え・ら、なあ。なめているのかっ。そんなことじゃ今年中に新しいく――」
「く?」みんな反応した。
「何でもない。とにかく、気を引き締めろ。死ぬ気でやれ」
「でも先生、やっぱ人間、慣れってある思いますー。学校来て、清掃して、授業受けて、昼食べて、上級生にからまれて、ほかの新入生からは白い目で見られ、午後の授業受けて、放課後時々ティッシュ配りに行って。その繰り返しなんやもん。ここらで学校行事とかイベントとかあると、単調な日々にアクセントができてええ刺激になるんやけどなあ」
「あるぞ。学校行事。五月の終わりに」
「ほんまですか? はよ言うてくださいよ。で、どんなイベントですー?」
五線譜の入った黒板に、凛さんが文字を書いた。
校内歌劇コンクール。
「毎学期、つまり年三回予定されてる。で、一学期の劇コンが五月の末にある」
「よっしゃ、ウチらC組で優勝かっさらったるで」
「おー」四人で声を揃えるのだって、もう無意識にできちゃう。
「待て待て。下級生は劇コンにエントリーできないんだよ。観るだけだ」
「何でやねん。そんなルール誰が決めたんですか?」
「ルールというか、正確には不文律だ」
校則には定められていないし、劇コンの公式ルールではないけれど、守らないといけない暗黙のルールというわけだ。
「下級生の内は、上級生の歌劇を見て勉強しなさいってことだな」
「くだらねえ。不文律なんてな、無視すりゃいいんだよ。無視だよ無視」
「全面的に果矢に賛成します。そもそも私より実力がある上級生なんていませんから、勉強のしようがありません」
「怜夏。樹理にまた歌ってもらうか?」
「うっ。熱美。陸井先生が意地悪言ってきます」
「うっ。私も吐き気が」
熱美は怜夏に寄り添って背中をさすりだした。果矢は何もしてくれない。バカ。
「不文律を破って下級生がエントリーした例もないではないが、お前ら、本気か?」
「たり前だろが」
「まずどんな劇やるかやな」
「C組は四人しかいませんから、登場人物が多い劇は無理ですね」
「図書室へ行って台本を探してみる?」
「せやな。よっしゃ、ダッシュや」
熱美に続いて教室を走り出ようとすると、
「バカ共っ」
と凛さんが叫んだ。私達は足を止める。
「いい顔になったじゃないか。あと、廊下は走るなよ」




