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凪の歌  作者: 仙葉康大
第四章
33/52

ティッシュ配り

「じゃ、ポケットティッシュ配り、行って来い」


 今日最後の授業を終えて、もう帰って寝たい状態になっている私に、凛さんが段ボール箱をわたしてきた。中には、桜水歌劇団の広告の入ったポケットティッシュが詰まっている。私だけじゃない。果矢も西園寺さんも安西さんも段ボール箱を渡されている。


 桜水音楽学校の授業は一コマ八十分だ。午前中は二コマ受けて、昼休憩を挟んで、午後は三コマ受けて、最後の授業が終わった現在、時刻は十七時。まだ外は明るい。でも、一時間後はどうか分からない。二時間後はきっと暗くなっている。


 今日の五つの授業、即ち声楽、バレエ、日本舞踊、ピアノ、タップダンスは、すべて凛さんから教わった。というか、Cクラス=C組の授業はほぼすべて凛さんが教えるらしい。やったー。毎日スパルタだー。今日は授業初日だったわけだけど、声楽では全員、「へたくそ」と言われ、バレエでは「下手くそ以前の問題」と言われ、その後の授業でも、「まるでダメ」だの、「才能ない」だの、「逆に笑える」だののオンパレードだった。そういうわけで私達は、精神的にも肉体的にも疲弊し切っていた。


 で、授業がすべて終わったと思ったら、ポケットティッシュ配りだ。


「そりゃないでー」


 安西さんじゃなくてもこう言うだろう。私もその場にへたりこんだ。


「私、帰ります。限界です。今日一日で私の自尊心がどれほど破壊されたか、陸井先生は考えるべきです」

「馬鹿らし。私も帰るわ」


 西園寺さんと果矢が段ボール箱を置いて、教室を出て行こうとした。


「待て、二人とも。これは罰だ。昨日あれだけのことをしておいて、何の罰もなしじゃ、他の生徒に示しがつかないだろう?」


 つかないどころか、ポケットティッシュ配りじゃ罰が軽すぎるぐらいだ。


「あの、でもなんでポケットティッシュ配りなんですか?」

「演劇の練習にもなるから、一石二鳥だと思ってな」

「あー、そゆこと」


 安西さんだけは納得したようで、拳を手の平に打ちつけた。


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