最後の質問
二次試験当日、廊下に並べられた木椅子に座って最終面接の順番を待つ間、私の心臓は痛いぐらいに強く鼓動していた。
告白しないと。
桜水音楽学校入学試験は、二次試験をもって終了するのだ。しかも、蓋を開けてみると、最終試験の内容は面接だけだった。しかもしかも、一次試験でのパートナーが両方二次に残っている場合は、二人一緒に面接を受けることになっていた。だから、言うならこのタイミングしかない。
「宗谷さん、あのね」
隣に座っていた宗谷さんは、天井へ向けていた視線を私へ移した。
「何だよ」
「私、告白しなきゃならないことがあって」
「はあ? 何を? っていうか何で今だよ?」
「どうしても面接前に言っておきたいの。聞いてくれる?」
「言えよ。あ、でも、長くなるのは勘弁な。手短に簡潔に言え」
私は深呼吸してから言う。
「私、青架那美の娘なの」
宗谷さんはまばたきを何度かしてから、ようやく口を開けた。
「青架って、あのトップオブトップスターの?」
「そう。信じられないかもしれないけど、そうなの。最終面接では、お母さんについての質問もあるかもしれない。だから、今、告白した。宗谷さんには直接、私の口から伝えておきたかったから」
試験官の質問を通して、間接的に伝えるなんて方法は取りたくなかった。だって、宗谷さんは私のパートナーだもん。
「まじかよ。でも、まあ、そんなもんかもな」
「あんまり驚かないんだね?」
「まあな。私だって陸井凛の姪だし」
「え」
えーーー。
廊下に私の声が響く前に、宗谷さんが私の口を押さえてくれた。
「次の二人、入室してください」試験管が言った。
面接の順番が回って来たので、今言ったことが本当かは訊けなかった。でも、宗谷さんの目は冗談を言っている目じゃなかった。
教室の中は一次試験の面接のときと変わらない。面接官は七名いて、真ん中に凛さんがいた。
「げっ」
宗谷さんが露骨に嫌そうな顔をした。
凛さんは桜水の講師をしているのだから、この場にいてもおかしくはないけど、私や宗谷さんの面接をするのは、避けるべきではないのだろうか。
「初めに言っておくが、お前ら二人については、私は採点しない。私情が入ってはいけないからな。でも、質問はする。どうしても訊いておかねばならんことが一つあるからな」
「勝手にしろよ、叔母さん」
本当だったんだ。宗谷さんは凛さんの姪なんだ。
面接は突飛な質問もなく、つつがなく進んだ。凛さんは訊かねばならんことがあると言っておきながら、まだ一つも質問してない。
すでに凛さん以外の面接官は全員、二つは質問した。と思う。
「では、以上で二次試験を――」
「待ってください」
凛さんは試験終了を遮ると、両肘を机について十指を組み、目を細めた。
「最後の質問をする。心して答えろ。まず宗谷果矢。お前は私の姪だ。そして水野凪。お前は青架那美さんの娘だ」
「だから何だよ? 関係ねーだろ」
「私も宗谷さんと同じ意見です。母は母で、私は私です」
凛さんがため息をつく。
「お前たちがどう思っていようが、周囲の人間は期待する。色眼鏡で見る。しかも、私も那美さんもトップスターだ。桜水に入ったら、出るまでずっと比べられるぞ。どれだけ上手く歌っても、どれだけ上手く踊っても、陸井凛や青架那美に比べたら、大したことはないだとか、しょせんは二世だとか、才能までは遺伝しなかっただとか、そんなことを言われ続けるんだ」
きっとトップスターになっても、トップ娘役になっても、言われ続けるのだろう。一生、言われ続けるだろう。私は耐えることができるだろうか。
「御託はいいから、さっさと最後の質問とやらをしろよ」
宗谷さんが強気すぎて、吹き出しそうになる。そうだ。私は一人じゃなかった。だからきっと大丈夫。
「今の話を頭に入れてから、よく考えて答えろ。桜水歌劇団でやっていく覚悟はあるか?」
私と宗谷さんは即答した。同じ答えだった。




