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凪の歌  作者: 仙葉康大
第三章
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一次試験終了

 組んで踊り始めると、私の足は勝手に動いていた。足をどこに出せばいいか、迷うことはなかった。宗谷さんの足の運びに合わせて足を出す。それだけで、間違わずステップが踏めた。私をコントロールしてくれてるんだ。多分、すごく神経と筋肉を使って。


 自分が情けなくてうつむいてしまう。


「顔、上げろ」

「ごめんなさい」

「いいから顔上げろ。突っ込むぞ」


 そう言って、宗谷さんは他のペアが踊っているスペースへ進路を切った。


「ぶつかるぶつかる」

「力抜け。私を信じろ」


 宗谷さんの声を聴いて全身を脱力する。ここで指示に従わないのは、裏切りだ。だって、宗谷さんは任せろと言って、私はお願いしますって言った。なら信じなきゃ嘘だ。


 進路の先で踊っているペアとの距離が縮まっていく。ぶつかると思った寸前で、ナチュラルターン。

紙一重でぶつからず済んだ。


「つぎつぎ行くぞ」

「えええ」


 宗谷さんは止まらない。他のペアとペアの間を回転しながら抜けて行く。ターンの連続で視界が回る回る。


 曲の音が大きくなった。終わりが近い?


「アレ、やるか」

「アレって?」


 宗谷さんがしゃがみ込み、私の両足、膝の裏に手を回した。


「水野、ジャンプ」

「え? え?」

「早く」


 何をされるか、予想のつかないまま跳ぶ。すると、一瞬で持ち上げられた。宗谷さんの顔が真直にある。これ、お姫様抱っこだ。


「ちょっと、ま――」

「目、回すなよ」


 宗谷さんがその場でスピンを始める。


 私は悲鳴を上げながら、宗谷さんの首に手を回す。スピンのスピードが速まるにつれて遠心力が強くなっていくので、必死になって宗谷さんにしがみつく。


 何十回も回った後、下ろしてもらい、またワルツのステップに戻る。私の平衡感覚は狂いきっていた。視界も揺れている。それでも立っていられるのは、やっぱり宗谷さんのおかげだった。


 ラストターンを決めて、私と宗谷さんは片手を繋いだまま、腕が伸びきるところまで行って、横並びになる。もう一方の空いている手を体の横斜め上へ挙げて、下ろしながら、二人そろってお辞儀する。


 他のペアのお辞儀と試験管の拍手、そして宗谷さんの横顔。

 お礼を言わなくちゃ。


「宗谷、さん」

「何だよ? お前、息上がってるじゃんか」


 宗谷さんが私を引き寄せる。私には抵抗する力なんて残ってなくて、そのまま宗谷さんの胸にもたれかかる。


「ごめんね、いっぱいいっぱい迷惑かけて」

「別に謝らなくていい。パートナーを助けるのは、当たり前のことだし」

「え?」


 顔を上げると、宗谷さんがそっぽを向いていた。


「何でもねえよ。ほら、行くぞ」


 次ここで試験を受ける受験生五十人ぐらいが中へ入って来た。私は宗谷さんに肩を貸してもらったまま、体育館を出た。


 私の、いや、私達の一次試験が終了した。


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