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凪の歌  作者: 仙葉康大
第三章
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面接試験

 試験管の指示に従って隣の教室に入る。

 広さも作りもさっきまで待機していた教室と同じだ。違うのは、長机に試験管六人が座っていること。

 パイプ椅子の横に立って、受験番号の若い方から挨拶する。


「受験番号四百五十五番、宗谷果矢(むねたにかや)、です。よろしく、お願いします」


 宗谷果矢宗谷果矢宗谷果矢。覚えたから。

 私は深呼吸してから言う。


「七百九十九番、水野凪です。よろしくお願いします」

「おかけになってください。これから面接を実施します。二、三、質問しますので、答えてください。真偽は問いません」


 ん? 真偽は問いませんってどういうこと?

 試験官の一人と目が合う。


「我々は演技指導のスペシャリストです。顔を見れば、その人が何を考えているか、大抵のことは分かります。ですので、あなた方の嘘を見破ることができるし、表情に真実を見出すこともできる。だから、真偽を問わなくても問題ないのです。水野さん、理解していただけましたか?」

「はい。実感しました」

「嘘くせー」


 何言ってるの、この子。私は思わず手を出して宗谷さんの口を押さえてしまった。


「すみません。ほんとにすみません。宗谷さんも悪気があって言ったわけじゃないんです。すごく素直な子なんです。すみません」


 何で私が宗谷さんのフォローをしなくちゃならないんだ。でも、口が勝手に動いてた。


「離せよ」


 私の腕を払うと、宗谷さんは腕組みして椅子に座り直した。


「手は膝の上」

「いいんだよ」

「よくないでしょ。面接の点数低くていいの?」

「てめーに関係ねえだろ」

「関係あるかもしれないでしょ」


 試験管の誰かが笑い声をもらした。


「そろそろ面接を始めても?」


 私はまた何度も謝る。宗谷さんは一度も謝らない。


「パートナーについて思っていることや会った時の印象を教えてください」

「最初はどうしてこんなチビと組まなきゃならないんだって思った」


 だーかーらー、あなたもチビでしょうが。


「自信なさげだし、目が弱者の目、臆病者の目だったから。でも喋ってみると、印象変わった。こいつ、見かけによらず負けず嫌いなところあるし、試験中なのに自分が間違っていると思ったことは口に出して、結果、私と口喧嘩になるし、もしかしたら」


 もしかしたら?


「滅茶苦茶バカなんじゃないかと今は思ってる」

「バカなのはあなたでしょ。ふざけてるの? お願いだから真面目にやってよ」

「やってるだろ。これ以上、どうしろっていうんだよ」

「まず、です、ますを語尾につける。名前言ったときはできてたじゃない」

「あ、やべ、忘れてた。もう面倒だからいいだろ」

「よくない。このままだと本当に」


 あ、私、また逆上して勝手に発言した。質問に答えるだけでいいのに、余計なことして面接の進行を邪魔した。何やってるの? いつもの臆病な私はどこにいったの? 


 試験官も今度は誰も笑わなかった。それどころか、目つきが険しい。

 謝らなきゃ。


「す」

「すみませんでした」


 そう言ったのは、宗谷さんだった。


「水野は悪くないです。私が最低限の礼儀すらわきまえていないから、見過ごせなかったのだと思います。全部、私のせいです。すみませんでした」


 目を伏せて頭を下げている。

 どうして?

 私は膝の上で拳を握る。宗谷さんが分からない。


「では、水野さんに訊きます。同じ質問です。パートナーをどう思っていますか?」


 私は宗谷さんをどう思っている?

 嘘は見破られる。なら。


「すごく生意気な人です。丁寧語すら使えてません。自分も身長が低いくせに、私に向かってチビとかくそチビとか言います。でも」


 私は足の先にも力を入れて、前かがみになる。


「でも、誰かをかばって謝ることができます。本当は優しい子です。改めて私からも謝罪させてください。勝手に発言して、お見苦しいところを見せてしまい、本当にすみませんでした」


 あとの質問は、当たり障りのないものばかりだった。どういう役者になりたいかとか、男役と娘役のどちらを目指しているかとか、学校ではどんな部活をしていたかとか。ほんとに、拍子抜けするぐらい、オーソドックスな質問が多かった。でも、志望理由は聞かれなかった。お母さんのことも話題に出なかった。面接が終わるまで、私は宗谷さんの方を見れなかった。わざと見なかった。だってなんか気恥ずかしい。なんで恥ずかしい? 今日の私、変だよ。


「以上で一次面接を終わります。退室して、次の試験会場へ向かってください」


 移動の間、私と宗谷さんは一言も話さなかった。


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