チビ
試験官の指示に従って、体育館から教室に移動する。教室と言っても、机は後ろに片付けられていて、木椅子が五十ほど並んでいた。あと、黒板じゃなくて、ホワイトボードだ。
「ここがあなたたちの待機場所になります。試験は十分後、開始します。それまで何をしても自由です」
私は、隣に座っている、私と同じくらいチビな子を横目で観察する。
黒髪は長くなく、肩の上で切りそろえられている。直毛だ。目に鋭さがあって、惹きつけられるから、鼻や口が小さく見える。この目、似たような目を、どっかで見たような気がするんだけど、えっと、誰の目だっけ?
「おい。見世物じゃねえからな」
「ご、ごめんなさい」
会話終了。
他の受験生のほとんどはパートナーの子と話をしている。自己紹介とか出身地とか、男役と娘役どちらを志望しているか、とか。そりゃあそうだよ。お互いのことを何も知らないで、一緒に試験を受けるなんて最悪手だ。
「あの、体育館では失礼なこと言ってすみませんでした。私、凪って言います。水野凪。お名前、教えてもらってもいいですか?」
「なんで敬語?」
「えっと、まだ親しくないので」
「まだ? これからも親しくなることなんてねえよ。どうせ試験の間だけの仮パートナーだ。慣れ合うつもりはないし、個人的にはお前みたいな、人の顔色うかがって臆病になってる奴は大嫌いだ。以上」
私は奥歯を噛みしめる。やばい。こめかみ辺りの血管がブチ切れそう。なんでこの子、こんなに偉そうなわけ? 緊張して神経質になっていたこともあって、私は、自分の中で膨れ上がった感情と共に思ったことをそのまま口にしていた。
「顔色を伺う? 敬語を使うのは最低限の礼儀でしょ。そんなことも分からないの?」
「おい、敬語が取れてんぞ」
「あ、すみませ、じゃない。私だってあなたのこと大嫌い」
「おー言ったな。くそチビ」
「悪い? このっ、ドチビ」
咳払いが聞こえた。
前方に立っている試験管と周囲の受験生が、私と私のパートナーを睨んでいる。
「すみません」
「さーせん」
「時間になりましたので、試験を開始します。呼ばれた順に教室を出て、試験管の指示に従ってください。じゃあ、とりあえず、そこのうるさい二人組から出て行ってもらいましょうか」
パートナーの子が舌打ちして立ち上がり、私を見下ろす。どうして私が見下ろされなきゃならないのよ。すぐ立ち上がり、背伸びする。ほら、私の方が高い。
「ばーか。何ムキになってんだよ。さっさと行くぞ」
ああもう。いつもの私はこんなに幼稚じゃないし、張り合ったりもしないのに。落ち着け。パートナーの子が生意気だからって私までつられちゃダメだ。
パートナーの子を追いかけて、廊下へ出る。窓から中庭が見えた。桜の木が生えているけど、まだ咲いてはいない。




