表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凪の歌  作者: 仙葉康大
第三章
14/52

桜水音楽学校入学試験

「二人組を作ってください」


 そう言われてから、三十分ほど経っただろうか。

 体育館の真ん中に私は一人でいた。もうみんな二人組を作り終えている。

 え? もしかして私、不合格?


=======================================================================


 三月二日、一次試験当日、私は桜水音楽学校の体育館で、膝を抱えて震えながら試験官のアナウンスを待っていた。当然だが、周りは受験生ばかり。コートを着ている人が多いけど、中はみんな丸首七分袖の黒のレオタードだろう。受験要項にそう指定があったのだ。


 今年の総受験者数は、四十名の定員に対し千二百四十八名で、倍率は約三十一倍だ。私の受験番号は、七百九十九番。待機位置は、体育館の後方で、ステージに向かって右側だ。


 入口で出欠確認も済ませたから、あとは定刻の九時になるまで待つだけだ。

 私は顔は動かさず、目線だけ動かして辺りの人を観察してしまう。


 座ってても分かる。みんな私より背が高い。あとやっぱり美人さんが多い。そりゃあそうだよ。だって容姿端麗が受験資格に入ってるんだもん。私より年上っぽい人もたくさんいる。ほとんどがそうかも。桜水を受験するには、十五歳以上十八歳以下の年齢でないといけない。つまり、私より年下はいない。


「これより桜水音楽学校一次試験を開始いたします。では、まず受験生同士で二人組を作ってください」


 いきなり何? 二人組?


 ざわめき声が広がっていく。動じてない人もいるし、もう立ち上がっている人もいる。まずい。出遅れる。私も顔を引き締めつつ、立ち上がる。


「あ、一つ言い忘れていました。パートナーは考えて選ぶように。試験を一緒に受けてもらいますから」


 どよめきが起こった。試験官に質問が飛ぶ。


「二人一組での評価になるということですか?」

「それともあくまで個人を評価?」

「二次試験も一次のときと同じペアで受けることになるのですか? だとしたら、パートナーが落ちた子はどうすれば?」


 ステージに立っている試験官の女性が答える。


「試験内容に関する質問には、一切お答えできません。ただし、皆さんに一つだけアドバイスをさせていただきます。一次試験はもう始まっていますよ?」


 試験官がポケットから懐中時計を取り出した。


「制限時間があるのですか?」

「お答えできません。次、無駄な質問をした受験生は減点します」


 素早く視線が飛び交う。誰をパートナーに選ぶか、見定める視線、人を選別する視線だ。私の見える範囲で、笑顔の受験生は誰一人いない。


 できれば、優しそうな子がいいな。


 私は自分よりも背の高い子たちを見上げながら、歩き回る。身長、百七十センチを超えてるんじゃないかって人、目力の強い人、脚線が滑らかで美しい人、よく通る声で話している人。いろんな人がいるけど、私は誰を選べばいいんだろう? というか、選べる立場じゃない気がする。


 みんな、私には目もくれないで前や横や後ろを通り過ぎて行く。もう二人組を作れた人達もけっこういる。でも、半分ぐらいはまだパートナーを求めてさまよい歩いている。


 このままじゃ時間だけが過ぎる。何もしないと何も起こらない。

 ロングヘアの子に声をかけてみた。


「あの、よかったら、私と」

「ごめんなさい」

「いえ、こちらこそすみませんでした」


 一人声をかけたら緊張がほどけてきた。次々と声をかけていく。


「悪いけど、他を探したら?」

「あー、ちょっと難しいかもな」

「その身長で? 話にならないわ」


 そっか。私、百五十センチに届くか届かないかってぐらいのチビだもんね。試験内容が二人で踊れとかだったら、チビと組んでも不利にしか働かないもんね。仕方ないよね。


 十人以上に声をかけたけど、ダメだった。

 二人組を作れた人は座っている。今や立っている人の方が少数だ。

 気がつけば、私は一人、体育館の真ん中に立っていた。


「今年の総受験者数は偶数です。欠席もなかったので、余りはでないはずです」


 アナウンスがあったので、辺りを見回す。

 いた。壁際に一人で腕を組んだまま突っ立っている。近づいて、頭を下げる。


「あの、よろしくお願いします」


 私がそう言うと、その子は少しだけあごを斜め上に上げ、ややつり上がった目で私を見据えた。


「チビ」

「なっ」


 私は絶句する。

 確かに私はチビだし、言われ慣れてるからショックはさほどないけど、でも。


「あなたに言われたくないっ」


 思わず自身の口を押さえる。私、初対面の人になんて失礼なことを。

 でも言わずにはいられなかった。

 だってあなた、目線が私と同じ高さだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ