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NPCは気付いてしまったっ……!  作者: 小荒 ユーカリ
第一部《NPC、町へ繰り出す》
9/13

第7話 NPCとは


リアムの初期装備

  防具→革装備(品質最悪)

  武器→ぼろっちぃ剣




「はぁ……はぁ……」


 乱れた呼吸を整えながら、隣で倒れている彼女(ユリ)と、ようやくたどり着いた革屋の店らしき場所を見る。


「なぁ、お前は何回この下りをすれば気が済むんだ……?」

「わ、私だって好きでやってるんじゃないんです……そもそも、MAPが悪いんですよ、MAPが。だって、私の向きに合わせて地図も向き変えてくれないんですもん」


 なんて屁理屈。いや、これが方向音痴なのか。


「というか、何で毎回迷うだけで倒れてるんだよ……」

「うぅぅ……私、聖職者なのでスタミナが極端に少ないんですぅぅ……」

「プロの案内人の名が廃るな」

「そ"の"は"な"し"は"や"め"て"く"た"さ"い"~」


 泣かれても知らん。そもそも、方向音痴がソロでするなよ。……いやま、ソロだからこそこいつを選んだし、俺としては助かるけどな。


「んで、ここが噂の革屋か?」


 看板がないから店、と言っていいんだかも分からないが。

 店先には革装備と、呑んだくれのじいさんがいるだけだ。じいさんは瓢箪片手に、飲んでは顔を真っ赤にしているだけで、店番の意味をなしてない。

 店も大きくなく、こじんまりとしたもので、並んでいる革装備だって貧弱だ。正直、店とは思えない。……そう、思えないはずなのだが。


 俺の記憶が、彼がこの店の店主であることを肯定する。


 植え付けられた記憶ではあるが、俺の形式ばかりの貧弱な革装備も、このじじぃから無理言って揃えてもらったものだ。


 いつも、飲み屋で悪酔いして、俺が介抱してやるじじぃだ。


「おい、じじぃ。厄介になるぞ」

「ヒ~ウィック」


 じじぃの目の前で聞くが、じじぃからは何の返事もない。変わらず、酒を飲んで顔を赤くしてるだけだ。


「話し掛けても返事は返ってきませんよ?この世界のNPCは基本、スクリプテッドAI──つまり、他律型AIなんです。今時のVRMMOにしては珍しいですよね~」

「へぇ」


 他律型ってことは、自分の意思を持たないのか。


 ──結局は、じじぃも俺と同じNPCってワケか。


 何故か、胸の奥がしぼられたかのような痛みが走った。

 それがなんなのかは分からない。だが、痛い。それだけは確かだ。


「邪魔するぜ、じじぃ」


 返事が返ってこない。それでも、このじじぃには言っておかないといけないように思ったのは、俺もNPCだからか。


「お、お邪魔しますね」


 遠慮なく店の奥へと進んでいく俺に着いてくる様に、彼女も恐る恐るついてくる。


「返事が返ってこないNPCにわざわざ言ってやる必要ないだろ」

「いえ……。なんか、やっぱり言わないと人間的にダメだなぁって」

「さっきと言ってること違うじゃねぇか」

「あはは……やっぱり、変、ですかね?」


 苦笑しながら言う彼女をチラリと見る。──ホント、そういう所が嫌いだ。

 必要ないのに、言うなんてバカらしい。NPCを、まるで人間みたいに接するなんてな。


 どうせ、心はないのに。


 だが……。


「ま、いいんじゃねぇの」


 何故か、胸の奥の痛みがスッと消えた。だから、別に良いかと結論付ける。


 そのまま、特に喋るでもなく、黙ってじじぃの家にあがる。じじぃの家は店と繋がってて、記憶上だと何回かお世話になっているから、勝手はなんとなく分かる。


「寝床は……確か2階で、食い(モン)は地下に置いてたな」


 階段を上る度に、ギシッと床が軋む音がし、木屑が下へと落ちていく。立て付けの悪い扉を開け、寝室の確認。あいつには、下の階にある台所や部屋の様子を見に行ってもらった。


「あいつ、まさか家の中でも迷子になんかならないよな……?」


 流石にそれはないか、とも言えないことに、笑えない。

 寝室も確認出来たし、とりあえず下に行ってやるか。


「おい、無事か」


 人の気配がする地下室の方へと向かうと、地下室前で扉と睨みっこしていた。


「何してんだ」

「あ、………あれ?」

「どうした」


 声をかければ、振り向いたのはいいが、眉を顰め、考え事をし始めた。


「いや、私そういえば、名前聞いてなかったなって」

「あ?今更か」

「今更です。お名前なんですか?」

「リアムだ。好きに呼んでくれて構わない」

「リアムさん、ですね!」


 笑顔で名前を呼ばれ、ふと、『NPC』以外で呼ばれるのは、意識が生まれてから地味に始めてだということに気がつく。

 名前を呼ばれると、まるで──。


「リアムさん」

「……ぁ?」

「怖い返事頂いちゃいました……リアムさん、怖いです」

「悪いな。考え事してた」


 おかげで何考えてたか忘れたが、忘れる位ならどうでもいい事だ。


「で、なんだ」

「いや、ほら、名前言ったら、私の方にも聞き返してくれないかなぁって……」


 こちらを伺うように見てくるこいつに、眉を顰める。


「めんどくせぇ女だな」

「めんどくさくないですよ!」

「……名前聞いても、お前しか言わないから必要ないぞ」

「いいですよーだ。勝手に言っちゃいますからね!私はユリです。本職は聖職者で、回復スキルしか取ってません。で・す・が!回復なら誰にもひけを取りません、1番です!」


 ずぃ、と1番であることを主張する為に、人差し指を立ててくる。そんなに主張しなくても、疑わ……疑うわ。こんな方向音痴が1番とか。無理だろ。


「あっ、その顔信じてませんね!いいです、いつか証明して見せるんですから!」

「ほぃほぃ。ま、頑張ってくれ」

「むぅ……。初心者さんだから優しくしてあげようって思ったのに」


 まぁ、いいです。と引き下がり、引き続きユリは扉と睨みっこを始めた。


「で、何してんだ」

「いや、お腹空いたし、何か作ろうかなって思ったんですけど、人様の家の冷蔵庫、あ、食物庫?……を勝手に開けていいのか考えてたんです」

「人様って……NPCの家だぞ?」

「じゃあ、リアムさんは怒られないと分かってても、人様のお家で食物庫開けられるんですか?」

「いや、そりゃまぁ……」


 怒られないとしても、それは立派な犯罪だし、何より道徳的に反する行為だ。うーん……。


「無理、だな」

「そういうことです」

「だが開ける」

「あっ!リアムさんの馬鹿ぁ!!」


 しかし、ここはじじぃの家だ。遠慮はいらない。横で何か吠えてるが、知らんふりだ、知らんふり。


 中身は……ロクなもんが入ってねぇな。食物庫の中、ほとんど酒瓶だらけだ。それも、食物庫全体に保存の魔法がかけられているとか、どんだけ酒が好きなんだあのじじぃは。


「チッ、しけてやがんな」

「失礼ですよ。そりゃ、私は飲めないのでがっかりですが」

「ぁ?お前、今何歳なんだ」

「16歳です。法律的にアウトです」


 胸の前でバッテンを作り拒否するユリを見て、何だつまらん、と思う。


「ほぉ、そりゃ残念だな。俺は後で頂くとするか」


 ま、俺も16歳だけどな。


 食物庫、もとい酒蔵はそのままに、1階に戻ってから、ふとある疑問が頭に浮かんだ。


「お酒はいいとして……ゲームの外の方では何か食べてきてないのか?」

「このゲームはそれとこれとは別なんですよ。こちらの世界でお腹が空けば、現実でお腹いっぱいであろうと関係ないんです。ステータスにも、スタミナとかHPの方に影響出ちゃいますし……」


 こちらとしては好都合っちゃ好都合な設定だな。


「いいな、その設定」

「はい!何だか本当の異世界に来たみたいで、これはこれで面白いんですよね!ご飯も美味しいですし!」


 その場が華やぐような笑顔に、思わず面を食らう。

 大きな瞳をきらきらと輝かせ、口元を綻ばす。……顔は結構可愛いんだよな、顔は。


「でも、今日はもう暗いので美味しいご飯は諦めましょう……。私の保存食でよければ、リアムさん食べますか?」


 肩にかけていた鞄を漁りユリが取り出したのは、紙に包まれた干し肉(ボルチィ)だ。保存魔法もかけず、紙で巻いただけで保存しているから、長くは持たないだろうな。


「ボルチィか。貰っていいか?」

「どうぞ」


 手渡してから、ユリがボルチィを一口食べると、「うぅ…ボルチィは相変わらず美味しくないです…」なんて涙しながら食べていく。

 俺も一口、と口に含むと……とんでもなくまずい。

 よく水分が抜けていて、保存食としては完璧だが、パリパリしてるし、臭みもとれていない。鼻から抜ける臭いのせいで、吐き出しそうになる位には、まずい。


「おい……このボルチィ最悪だぞ」

「ぅぅ……ボルチィの有名店って言ってたのに、騙されましたぁ」


 本当にこいつ、聖職者で1番のプレイヤーなのか疑わしくなるほどポンコツだな。


「私、これ食べたらログアウトします……ぅぅぅ」


 ログアウト。多分、この世界からあいつらの世界に戻るという意味か。こいつにとっては、何でもない一言だったのだろう。だが、その一言で俺は現実へと引き戻されてしまう。


 ──俺は、NPCなんだと。


「ぅぐっ……ふぅ。では、ログアウトします。おやすみなさい、リアムさん」

「あぁ、おやすみ」


 欠伸をしながら、彼女はこの世界から消えた。


「………。」


 1人、黙々とボルチィを食べる。食感も悪く、匂いも悪い、最悪なボルチィを。


 その場に、パリパリという音だけが響いた。



◇◇◇



 ──真夜中。


 ギシ、ギシ、と嫌な音を立て階段を上る足音が1人分。


 その足音の行き先は、2階の寝室。


 寝室にあった布団を身体に巻き付け、ベッドの上だというのに、座りながら眠るリアムに、人影がさしかかった。







リアム「( ˘ω˘ )スヤァ」

ユリ「あ、ぐっすり寝てる。かわいい」


…………………………………………………

~ユリver.~

ユリ「( ˘ω˘ )スヤァ」

リアム「……この寝顔、殴りたい」

ユリ「何でですか!普通は守りたいんじゃないんですか!(。>д<)」

リアム「狸寝入りか」

ユリ「はっ…バレてしまいました!Σ(´□`;)」

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