表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NPCは気付いてしまったっ……!  作者: 小荒 ユーカリ
第一部《NPC、町へ繰り出す》
8/13

第6話


 俺は、こいつが──嫌いだ。


 何故かは分からない。ただ、あの若菜色の瞳を見ていられなかった。


「クエスト、受けてくれてありがとな」


 お礼を言えば、キョトン、とした表情でこちらを見るその顔も。


「いいえ、私なんかで良ければ!と言ってもまぁ、回復しか出来ないのですが」


 なんて、苦笑する顔も。──嫌いだ。


 だが、利用価値はある。回復しか出来ない、というのも良い。裏切った時も簡単に対処出来る。でも、そうならない様に俺は彼女を騙す。

 まずはNPCであること。そして、良い人であることを演じる。


 そんな悪い考えを隠す為に、リアムはにこりと、人の良い笑顔をユリに向ける。


「いや、回復が出来るのは助かるよ」

「そう言われると嬉しいです!……あ、いつまでもここにいると危ないですよね。最近見つけた、隠れるのに良い場所があるんです!そこに案内しますね」

「ありがとう。俺の事情に巻き込んで悪いな」

「そんな。私、人を助けられるのが嬉しいんです。気にしないで下さい。……さ、街に行きましょう」


 歩き始める彼女の後頭部を見ていると、ふと、ある単語が頭の中に浮かび上がった。


 ──偽善者。


 巻き込まれて迷惑がる奴がいても、喜ぶやつなんていないだろうに。


 助けてもらっておきながら、偽善者である彼女に嫌悪感を抱いた。


「そういえば」

「ん?」

「ここ、どこですか?」

「は?」


 突拍子のない質問に、思わず歩みを止めてしまう。


「?突然止まって、どうしたんですか?」


 背後の気配がついてこないのを察してか、不思議そうな顔で振り向いた。が、リアムとしては何でそんな不思議そうな顔をしているのか、逆に聞きたい気分にかられる。


「お前、まさか分からないまま歩いてたのか?」

「はい、そうですけど……?」

「いや、はい、じゃねぇよ!?案内するんだよな!?」

「あ、私方向音痴なんです」

「案内に向かない人が案内しちゃダメだろ!?」


 顔を朱色に染め、もじもじしながら音痴宣言する彼女に、殴りたい衝動が芽生えるが、震える右手を抑え耐える。


 ここで彼女を殴れば計画は水の泡なのだ。我慢、我慢……。って、ん?方向音痴?


「いや、待て。方向音痴なのに、ここまでどうやって来たんだよ?」

「勘です!」

「そっかぁ。勘かぁ、うん、そうだよねぇ。……そっかぁ」


 ……こいつ、チェンジしたい。


「あ、何ですかその遠い目!」

「お前がそうさせるんだ」

「えぇ!?」


 文句を言い合い、勘に頼りながらリアム達は森の中を突き進んでいった。


◇◇◇


 日は完全に沈み、夜。街灯がほのかに道を照らす中、憔悴しきった顔の男女2人が石畳の道をふらふらと進んでいく。


「疲れ……ました」


 女の方が、ガクンと膝から崩れ落ち、杖を手から離す。そんな(ユリ)を、(リアム)は、同じく遠い目をして見つめる。


「街に行こうって言ったのは誰だったんだろうな……」

「あ、それ私です……」

「私です、じゃねぇよ!?」


 この街から、森は目視出来る距離にあった。あった、はずなのだが。


「何でここまで来るのに、3時間もかかるんだよ!?」


 余りにもひどい結果に、涙目になりながら崩れ落ちたユリの襟元を掴み揺らす。


「はぇぇ……揺らさないで下さいぃ……」


 抵抗する元気がないのか、揺らされるのに身を任せるユリを見て、今は何をしても無駄だと察したのか、リアムは手を止め、ため息をついた。


「とりあえず。もう、お前の勘に頼っちゃいけねぇってのは分かったから良しとするか」

「そんな!酷いです!」

「この状況がな?」


 そんなぁぁ、なんて泣きながらしがみつくユリに呆れ、ユリを無視し、リアムは始めての街を見渡した。


 辺りを見渡す限り、歩いているのは2人。

 格好はリアムとそう変わらない、地道な色合いのラフな上着とズボンに、革のロングブーツ。とりあえず普通の村人の格好なのを見て、襲われる心配はないだろうと、安堵の息をもらす。


 街自体は石造りの家々が立ち並ぶ普通の街──なのだが、夜だというのに家から光は漏れておらず。

 夜だから、というにしても異質すぎる光景。街にある時計が指す時間も7時と、そこまで遅い時間でもないのに、ここまで人の気配が無い、となると、自分の常識と照らし合わせても明らかに異常だ。


「ま、俺の常識は植え付けられたもんだから、どこまで正しいか分からんが……」

「あれ?何か言いましたか?」

「……いや、何でもない。それより、安全な場所は本当にあるんだろうな?」


 方向音痴に場所を聞くのはどうかと思ったが、一応聞いてみる。


「ありますよ。えっと……そこの雑貨屋の左を曲がったら、革屋があるんです。……と言っても、あるのは使えない革装備ばかりで、特殊武器製造の方がメインみたいなものですが」

「革屋……?」


 聞き覚えのある単語に、頭を捻る。


「一応革屋ですよ。あそこ、私しか解禁出来ていないので、私が紹介しない限り誰も来れないはずです」


 だが、ユリはそれが革屋である事に疑問を抱いたと思ったのか、検討違いの解答が返ってくる。リアムとしてはそこを追及する気はなく、適当に相槌をうって流す。


「ふぅ。スタミナ切れ回復したんで、行きましょう。すぐそこなんです」

「すぐそこ、か……。着くのに何時間かかるんだろうなぁ」

「さすがにそこまで酷くありませんよ!?」

「え?」

「え?じゃありません!ホントですよ?一瞬で、スパパパーンッて着くんですから!」

「えぇ……」

「信用して下さいよ!!」


 涙目になりながら反論するユリを見て、笑う。

 

 面白い反応する奴だな、と思うのと同時に、俺が騙してるとも知らずに、こいつはこのふわふわとした空気に浸かり、信じきっている馬鹿な奴だとも思う。

 この、人を信じきっているお花畑の頭に、どうやったらなるのか。むしろ俺が騙されているんじゃないかと、疑わしくもなる。


 そんな考えを悟られないように、慎重に言葉を重ねていく。


「だって、目の前の森から街に行くのにも迷ってるのに、なぁ……?」

「あ、あれは地図がないからなんです!流石に、MAPがある街じゃ迷いませんよ!」


 ……街にはMAPがあるのか。


 彼女の言葉から、プレイヤーを演じる為の情報を覚えていく。

 しっかり設定は覚えていかないと、プレイヤーを演じるのに限界は来る。その点、抜けている彼女は好都合で、やっぱり彼女を選んで良かったと思う。


「へぇ。MAPがあれば、ねぇ……?お手並み拝見と行こうじゃないか」

「いいでしょう……私の力を見せる時が来ました。とことん見て下さい」

「……お前、本職なんだっけ?」

「聖職者です!だけど今だけは案内人。フッ、このプロの案内人たる私にかかれば、スパパパーンッです」

「スパパパーンッ、ねぇ」

「スパパパーンッ」

「言っただけじゃやった事になんねぇからな?」


 説明通りだと、左に曲がらなきゃいけない雑貨屋前の道を通りすぎながら、リアム達は街を歩いていく。


「……。」


 ──やっぱ人選間違えたか。


 なんて、考えるリアムと、鼻歌を歌いながら進むユリは、どこへ向かうのだろうか。


ユリ「あれ?な、なんかMAPが変です!つきません( ;ω;)!」

リアム「そりゃ、初っぱなから間違えてるからな…(-.-)」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ