第2話
「ッ──てぇ!やっぱいてぇよ馬鹿やろぉぉ!!」
涙目になりながら、リアムは何も怪我をしていない右腕を擦り文句を叫んだ。
「で、また戻ってきたわけだ……あ、いや、前回はここで死んだから戻った訳じゃねぇけど。ま、生き返ったか。腕もあるしな」
ぽんぽんと優しく右腕を叩いて、そこに神経が通っていることを確認する。──ただ叩いているだけなのに、腕があるというだけで何故か嬉しくなってしまう。
だが、そんな喜びも束の間。リアムは顔を引き締め、事の成り行きを考える。何故、奴等は襲ってくるのかを。
「殺してくる理由さえ分かれば、ある程度は対策をうてるはずだ」
考えろ。まず、あいつらは何をしてくる?──右腕だ。方法はどうあれ、絶対に右腕を切り離してくる。
最初は恐らく鈍器だ。あのひしゃげた肩と、鈍い音がみょうに耳に残っている。次は多分、剣。その次のは──右腕を千切られる前に死んだから恐らく違う死因だ。これは除外。その次も剣だ。さっきは暗器。──まだ回数は少ないが、今のところ多いのは剣士っぽいな。
戦闘職、それも剣士が俺の右腕を切り離すだけの理由が、果たして俺の右腕にあるのか?
これだけじゃ何故あいつらが右腕を切り離してくるか分からない。情報が足りなすぎる。
次。殺される時は、絶対魔法で殺してくる。魔法を使える奴がいっぱいいる時点でかなりの脅威だが、それは今はいい。重要なのは、魔法で殺す必要が本当にあるのか?
「……あ。そういえば、一回胸を刺されてから魔法で殺されたのもあったな」
胸を一突きしたのなら、それだけで死ぬはずだ。
なら、やっぱり魔法で殺す必要がある線が濃厚だな。
殺しと右腕を切り離す行為は別の方法である必要があると考えて良さそうだ。それを含めて、今回は全力で避けることに注力する。
「……そろそろか」
視界に、キラキラとした光が写る。──いつも、この光が出るまでは絶対殺されない。多分これだけは信用していい情報だ。
謎が多いままなのはかなり不安だが、最初に切り離してくるのが分かったから、まだやりようはある。
───剣を握る。
緊張から顎からは汗が滴り落ち、剣の柄を握った手には手汗をかき、滑り落ちそうになる。
そうだ、俺には剣がある、戦える。
「頼りないおんぼろの剣だが……お前が俺の相棒だ。頼むぜ」
右肩辺りに意識を集中させる。素人が下手に遠くを見たって、何も見える訳がない。それを前回学んだ。いくら素人だって、学ぶことは出来る。
「──!」
右肩の少し斜め後ろから、何か素早いものを目にする。
咄嗟にしゃがみこんでそれを避けると、真上には槍だ。
「ハハッ…!避けてやったぜ!どうだ!!」
達成感から笑みが込み上げる。それだけでどうにかなる訳じゃない。
だが、たまらない。たまらない何かが、リアムの中に生まれる。前回と同じ、その熱い何かが込み上げてくる。
槍の持ち手の方には誰もいないのに、槍がもう一度俺の右肩目掛けて飛んでくる。前に転がり込んで、何とか避ける。おかげで顔も服も土だらけ、地面を転がる姿はみっともないが、いくら無様と言われようが気にしない。無様だと笑いたきゃ笑え。───これが、俺の今の全力だ。
「っ下手くそ!何やってンだよ!」
怒鳴り声が飛んできた方を向くと、見えなかったはずの槍の持ち主と、ローブの男が立っていた。
「俺のせいじゃねぇよ!あのNPCが避けやがって!!」
「はぁ!?んなの言い訳にしかなんねぇよ、俺の方がもっと上手くやれるぞ、いいから貸せ!」
「っちょ!!」
と、次の瞬間にはさっきよりも明らかに鈍い突きが来る。横に避け、穂のすぐ近く、口金を掴んで槍の動きを封じる。
「仲間割れは俺にとっちゃ都合いいが──流石にここまで馬鹿にされるとはな?」
掴まれた事で焦りを感じたローブの男が必死に動かすが、そうはさせない。俺も全力で対抗する為、剣を投げ捨ててでも両手で対抗する。
「本職じゃなければ何とか拮抗は出来る。俺だって男だ。馬鹿にすんな」
「なんなんだよ!NPCが、おい!運営に報告しろ!」
「いや、パッチ当てられたって噂を板で見た。……これが、パッチの一部かもな」
「んだよ!!NPC風情がっ……調子に、乗るな!!《ヴェクリクス》!!」
ローブの男が片手を離したことでバランスが崩れ、俺は槍を持ったまま後ろへと倒れていく。体勢が崩れた俺は何も出来ず、ローブの男が放った爆発系魔法をまともに喰らう。
「なっ──」
身体は四散し、地面へと向かい落下していく中。辛うじて残る意識で、あいつらの言葉へ耳を傾ける。
「……ハッ、武器を捨てたのが運の尽きだったな」
───次こそ、生き残る為に。
リアム「死にすぎて辛い」
武器「捨てられた……(*´∩ω;`)グス」
???「NPC周回うめぇぇぇ三└(┐卍^o^)卍ドゥルルルル」