- NPCの非日常 -
短めです。
「………………。」
鬱蒼とした森の中。ただ呆然と、失意をなくした青年が立っていた。
虚ろな目に光は写らず。ただただ、立つだけだった。
───刹那、赤黒い血飛沫。
「…………………。」
自分の右肩から生が抜け出ていくのを、見つめる。
真っ白だ。
「あぁ……」
そんな白い中、青年が見たものは。
「綺麗だ」
自分の体が、光の屑へとなっていくことだった。
◇◇◇
「………今…は、さっ………り、早……ポップだな」
クリアになっていく視界の先には、軽装の少年だ。冒険者として最低限の様に見えてその実、必要な所にだけ装備があり、稼働域を最大に取れる最低限の装備。
かなりの強者だ。──こんなの、勝てっこないだろ。
「ははっ……」
青年が薄く笑うと、軽装の少年は不気味な物を見たかのように、眉を顰める。
「何が、可笑しい……?」
「いや、ね。俺、愛されてんなぁって」
「は?」
だから。
────ブンッ。
「………あ?」
「あー、これでも痛がらないって。バケモンじゃん?」
青年は、手に握っていた古びた剣を、少年の胴体に向かって振るったのだ。
「え……?」
少年が、低くなっていく自分の視線に不審を感じて、下を見た。
腹が床に、突き刺さっていた。
「は?」
違う。──下半身が光の屑となって消え、少年の体は、上半分しか残っていないのだ。
「は?は?は?………どういう……クエストNPCが、攻げ……き?」
驚く少年の顔に、青年はしてやったりと、笑みを浮かべた。
口元に浮かぶのは、三日月だ。
「何の事だかさっぱり分かんねぇが………ようやく、やってやったぜ。殺人魔」
少年の肩が、小さく震える。怒りの、震えだ。
「こンのッ……強化周回用の、雑魚NPC風情がぁぁああああああ!!!!」
少年が、勢いに任せてナイフを片手に身を乗り出すが、下半身がないせいでそのまま前に倒れただけだった。
「NPCがっ!NPCがっ!ふざけるな!ふざけるなよ!──お前らNPCはっ!プレイヤー様の思う通りに動かなきゃいけねぇんだよ!!」
「何言ってんのか分かんねぇって。後、俺の名前はリアムだ。覚えとけ」
鼻くそを少年の額につけて、リアムは人の悪い笑みを浮かべた。
「NPCがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
少年の木霊を残して。───光の屑となり、散った。
「だから、NPCってなんだよ」
青年。いや、リアムは。
彼が散っていった光の屑を、空へ、空へ、見送った。
ここまでが、彼のプロローグです。
ようやく第一部突入!
………本当は、もっとじっくりやりたかった。
ちなみにどうでもいいですが。
少年が最後に残した、「プレイヤー様」の発言の下りは、昔、スマ○ラで私の兄がイライラしてNPCに放った言葉です。……印象が強すぎた。
「動いてりゃあ」か、「動かなきゃ」かは忘れた←