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NPCは気付いてしまったっ……!  作者: 小荒 ユーカリ
第一部《NPC、町へ繰り出す》
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第11話



 目の前に広がるのは木々が立ち並ぶ、森の入り口。──といっても、ここはリアムがいた森ではない。


 リアムがいた森は、初心者の街の近くでありながら、未だ最高難易度を誇る森、通称"初見殺しの森"とプレイヤーの間では言われていた。

 初心者が知らずに入れば、高レベルのモンスターに襲われ、たちまち死んでしまうのだそうだ。

 リアムがいた場所は森の浅い場所なので、余程運が悪くなければモンスターと鉢合わせすることなく行くことが出来る。


 今回は簡単な薬草クエストの為、リアム達はそちらとは別の難易度が低い森の方へ来ていた。


 初心者御用達の"ロロット森"。ここで薬草は取れる。


 リアムが今すんでいる街──アグラタムの街からそう遠くはなく、【薬草を10本持ち帰る】というクエスト内容の初心者用依頼なので、特にバグもないとのこと。


 リアムは地図を折り畳み、道中で買ったベルトポーチにしまう。


 現在リアムの装備は、初期の革装備とオンボロのロングソード。ベルトポーチの中に地図や保存食料、右側につけたレッグポーチにサバイバルナイフと、質が悪い回復ポーションを2,3本仕込んでいた。

 ポーションにおいては、ユリがいるので無駄としか言えないが……。


 振り返って、黙って後ろをついてくるユリを見ると、その目に覇気はなく。まるで虚空を見ているかのようだった。


「おい」


 声をかければ、視線をこちらに向けるなど、多少の反応こそすれ応じることはなく。


 ──まるで人形と歩いているようだ。


 今までの彼女からは考えられないその静かさに、リアムはため息をついた。


「こんなのに、無理矢理回復をかけさせるのもな……」


 だから仕方なく、今回はポーションを用意した。

 

 あの元気な姿は気丈に振る舞っていただけなのか。リアムの脳裏を過るのは、馬鹿な発言をしてやたらと騒ぐユリの姿だった。


 だが、目の前にいる人形のような彼女を見て、リアムは眉間に深い皺を刻んだ。


「自分に余裕が出てから人を救うとか言えっての」


 ──だから嫌いなんだ、偽善者。


 動かないユリの頭に手を乗せ、乱暴に掻き回す。


「おら、行くぞ」


 どんな表情しているかなんて気にせず、リアムは構わず森の奥へと歩んでいった。





「えぇと……?これが薬草であってんのか……?ん?いや、これは……ドクドク草か……?」


 手に取った草と本と睨み合いをする。

 初めて見る薬草に目を凝らして見るが、リアムは他の草との違いがよく分からず。


 クエストはお世辞にも、順調とは言えなかった。


「それで合ってますよ」


 かけられた声の方を向くと、多少はまともな顔つきになったユリがいた。


「薬草とドクドク草の見分け方は、葉の形状です」


 横に立つユリの手が、本の上をツーッと滑り、ドクドク草と書かれた絵の葉を指す。


「ドクドク草の葉は、薬草のギザギザの部分より少しトゲトゲしてるんです。もし誤ってトゲトゲの部分に刺さってしまうと痺れますので、すぐに水で洗ってください。葉先の毒性は余りないので、毒耐性が低くても、洗えば3分位で痺れが取れるはずです」


 いつもの擬音語のオンパレードではあるが、まるで別人かのように落ち着いた声音。表情も幾分かマシとはいえ、まだ硬い。


「おい」

「何でしょう、リアムさん」

「わ──」


 その時、草の茂みが揺れた音が耳に届いた。


 ここは街とは違い、攻撃禁止エリアではない。リアムの左手は、自然と剣の柄を握りしめていた。


「あれれぇ?寄生虫君じゃーん」


 (かん)(さわ)る明るい口調の男の声。


 ユリは咄嗟にリアムの背中に隠れたことで、否が応でもそれが誰だか分かった。


 出てきたのは後ろに屈強な体の男を連れた、金髪の軽薄そうな男──デルソだ。


「まっさか、薬草の見分け方も知らないでユリちゃんに寄生してるわけかな?うっわ、恥ずかしいねぇ!!」


 目の前で唾を飛ばしながら威勢を張るデルソに、リアムは嘲笑する。


「なんだ、昼間の負け犬じゃねぇか」

「だ、誰が負け犬だとぅ!?」

「お前だよ。昼間の女共はどうした?俺の前から逃げるように去ったから、女から逃げられたのか?……ハッ、だせぇ」

「俺はね、紳士なの!だから、女の子達は危ないだろうと、置いてきただけなんだよ!決して、そう、決して逃げられた訳じゃねぇよバーカ!!」


 負け犬はよく吠えると言うからな、なんてリアムは内心呆れながら男の罵詈雑言を聞き流していく。曰く、寄生虫、スカし野郎、目付き悪い、などなど。


 ──悪口だが、あながち間違っていない。

 なんてつい感心してしまうが、そうじゃない。いや、目付き悪いのは認めるが、言うほど、そこまで悪くないよな?な?


 若干思う所はあるものの、特に響いてなさそうな、その余裕な態度にデルソは額の青筋を増やす。


「こンのッ……!」


 襟を掴み、今にも殴りかかりそうなデルソ。だが、それにすらも強く反応しないリアムに、デルソは怒髪天を衝いた。


「お前みたいなのがいるからッ……!魔王なんかが産まれんだよ!!」


 ──魔王。


 カランコエ大陸にいる、魔の王。すべての憎しみの象徴。


「ぁ?お前、今なんつった……?」


 魔王なんかが産まれたんだ。──その言葉に、また体が熱くなる。


 抑えられない怒りが、赤が。リアムの体を蝕んでいく。


 目の前が赤色に染まっていく。血のように染まった赤黒い(あか)



 赤。(あか) (あか) (あか) (あか) (あか)、あ

 


 ──パンッ!!


 小気味いい音に、あかい思考(しかい)が弾ける。


「なっ──!」


 その驚いた声は、誰のものだったのか。


 頬を抑えるデルソか、頬を叩いてしまったユリか、呆然とその光景を見るリアムだったか。


 誰かは分からない──だが、ユリがデルソの頬を叩いたのは事実だった。


「それだけは赦さない。それだけは、それ、だけはっ……絶対にっ──!!」


 憎悪の塊を乗せた声音と視線。眉を吊り上げ、眉間に皺を寄せて。

 彼女は、今まで見せたことこないような表情をしていた。




屈強な男(僕、空気…(;ω;))

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