6話 5/30年目 ファースト、少しだけ大人になる
「ククク、来たな・魔法少女!」
「出たわね!削除する者!」
前者がトレイターに協力をすることを条件に非日常へと招待されたバニッシュと呼ばれる者である
結局ファーストは”魔法少女には魔法少女を”と思いつき、似たような術式を作り出し、トレイターの力を植え付ける魔法少女とはまた別の術式を作り出すことで対抗することにしたのだ
現在の戦績はこの2年で20戦16勝4敗となかなか好調な滑り出しだとファーストは思う
バニッシュは褐色の肌に黒い目、赤い瞳が特徴の魔法少女のようなものである
なぜバニッシュと呼ばれるのか
それは簡単だ
”バニッシュ達”は、魔法少女と戦い、殺さない代わりに魔法少女の力をすべて剥奪する力をもった存在
同時に、魔法少女としての記憶も消すことができる
故に”削除する者”と呼ばれるようになった
今魔法少女と戦っているのは3番目のバニッシュである
くすんだ金髪が褐色肌の所為かひどく美しく見えてしまう
人形のように均整の取れた顔の所為でさらに現実離れしているように感じてしまう
「貴様の魔法少女としての力、渡してもらおう!」
ズズズと黒い球が周囲に浮かび、魔法少女に向かい飛んでいく
お互いに小手調べなのだろう、魔法少女も白い球をバニッシュに向け放った
すべてがお互いを相殺しあい、打ち切ると静寂が訪れた
「フッ、どうやらただの雑魚ではないようだな!」
「何かっこつけてんのよ」
「ならばこれならどうだ!」
ここからが本番だ
そうひしひしと伝わるほどおぞましい何かが姿を現した
ソイツは簡単に言ってしまえば
「ケルベロス!?」
よだれをまき散らしながら
ウォオオオオオオオオオオオオオオオン!
車よりも早く駆け出した
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数分後、そこに立っていたのはバニッシュであった
「ククク、やはり魔法少女と言ってもやはり雑魚ということだな!」
魔法少女から力と魔法少女としての記憶を奪い終えると同時、その場から魔法少女の体はウィッチワールドから消失した
「だが、あいつらは私たちに何をさせたい?魔法少女を倒させて、力を奪って、その先に一体何が?」
実のところ、バニッシュもなぜこんなことをする必要があるのか聞かされてはいなかった
いや、正確には聞かされているが、理解できなかった
いつの日か、その理由を聞いた時にバニッシュを誘った小さな生命体はこう言った
「我らの母上を守るためだ」
そう言いながら公園にある黒い繭を指差していたのを思い出す
ひどく重苦しい世界だと、同じ世界なのに違う世界に迷い込んだような場所だとその時のバニッシュは思った
けれど
「さぁ、君も魔法少女のように変身しよう」
そうして変身すると、その場の重苦しい空気が一変した
心地良い
最初にそう思ってしまうほどに
今ならなんでもできる気がする
そうしてバニッシュは魔法少女の敵となった
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「今思えば…いや、今も思えばかな?すごく怪しい誘いに乗ってしまったなと自分でも思っちゃうなあ」
あの黒い繭の中身が何なのかはわからない、ただ常識に当てはめて考えるとアレは間違いなくろくでもない何かに違いない
そうはわかっていても、この世界をこの姿で歩くことの心地よさが見て見ぬふりをする
「判断を誤ったかなぁ…」
でも、つまらない日常から非日常へと来れたのは普通にうれしい
魔法少女の敵をやるのも悪くないと思えてしまうくらいには
本当は魔法少女が人として正しいんだろうとわかっていても、それでもいい
だから今はこの立場を精一杯楽しもうと思う
そんなバニッシュを繭の上から魔法を使って見ながら、ファーストは密かに笑みを深めた
クスクスと上品に笑うと
「魔法少女が正しいか…本当は違うんだけれど、御祖母様は何を考えてるのかよくわからなくてめったに会いに来てはくれない、でも何となく、魔法少女は”お母様を守るための敵”なんだとわかってしまいました。」
そしてバニッシュは…
「ウフフ…」
あぁ。
早く会いたいわ、お母様