七夕のサンタクロース
「ニコラウスさん、お仕事です!」
「はい? いいかな、ルドルフくん。今日は、七月七日じゃぞ。十二月の暮れまでは、まだ半年近く残っとるわい」
「それは、オイラも変だと思いますよ。でも、子供たちの願い事を書いた紙が、この枝だか草だかわかんないものに鈴なりになってるんです。――ほら、見てくださいよ、このカラフルな紙の数々を!」
「ブハッ。これこれ、顔に押し付けるんじゃない。……どれ。ひとつ、読み上げてみようかのぅ。『かけっこがはやくなりますように。あきら』、『じがきれいになりますように。かずこ』。ほぅほぅ」
「『いちごののったしょーとけーきがたべたいです。なるみ』、『あたらしいさっかーぼーるがほしいです。へいた』。なるほどねぇ」
「しかし、まぁ、こんなものを持ち込んで、どうするつもりじゃ?」
「えっ? そんなの、やることは一つに決まってるじゃないですか。ここにある願い事を叶えるんですよ!」
「却下じゃ」
「えぇ、何で駄目なんですか? 子供たちの夢や希望を叶えるのが、オイラたちの唯一の仕事だって、いつも言ってるじゃないですか」
「いやまぁ、それはそれ、これはこれじゃ。だいたい、これは平仮名じゃろう? サンタクロースが真夏の日本へ行ったら、何事かと思われるに決まっておる」
「そこは、あわてんぼさんってことで、見逃してくれないんですか」
「そんなお茶目な真似は、ワシのキャラクターに合わんわい。そうでなくとも、あの国でワシたちは、要注意人物として警察にマークされとるんじゃからな。とにかく。これは、元あった場所に戻してきなさい」
「シュン。ニコラウスさんなら、きっと乗り気で準備を手伝ってくれると信じて来たのに。オイラ、ガッカリだよ」
「……わかった。そう、あからさまに落ち込むな。願い事を叶えてやろう」
「ホント? わぁい。やっぱり、言ってみるもんだな。ありがとう!」
「はいはい。そう、ドタバタとはしゃぎまわるでない。床が傷むじゃろうが」
「あっ、ごめんなさい。嬉しくって、つい」
「はぁ。面倒なことになったもんじゃのぅ」
*
「やれやれ。これで、最後じゃな」
「まだだよ、ニコラウスさん。紙は、もう一枚残ってるんだ」
「なんじゃと! しかし、持ってきた袋には、贈り物は一つも残っとらんぞ?」
「そりゃあ、そうだよ。だって、最後の願い事は、これだもの」
「ナニナニ。……『ニコラウスさんが、ずっと健康で長生きできますように』。なんじゃ、これは?」
「エヘヘ。オイラの願いです。叶えてくださいね?」
「フンッ! おだてても、何も出さんぞ?」
「とか何とか言っちゃって。オイラ、知ってるんですよ? その袋が二重になってて、実は、もう一つプレゼントが隠してあること」
「オッホン。こういうところだけは、鼻が利くんじゃな。――ほれ、受け取るがいい」
「やったね。これだから、オイラはニコラウスさんのことが好きなんだ。サンキュー」
「あぁ、その代わりといっては何じゃがな。十二月二十四日の夜も、今夜に増して、よく働くのじゃぞ。良いな?」
「はい、サンタクロースさま」