がんがんファンタジー
「いっけなーい! 遅刻遅刻~~☆彡」
可愛らしい声に思わず振り向くかどうかというところで、背中から突き飛ばされ、ふんどしの中へ転げ落ちていく。
僕たちの選択はこのようにして奪われた。
「……ごめんなさ~い……大丈夫ですか?」
倒れた僕たちに少女が手を引いてくれ…すごいヌメヌメしてる。僕の汗かな、恥ずかしいな。
「まったくこのドジョっ子め///」
嗚呼、嘆かわしい。ノイクの人格がファンタジー染みてきている。
少女は間違いなくウナギであり、それをドジョウと間違えるとは、嗚呼、ノイク、其方は嘆かわしい。
やはり彼女に相応しいのは僕しかいない。僕しかいない。
「おいショウ、周りを見てみろよ」
「僕しかいない僕しかいないボクしかいないボクしカいナイ」
嗚呼、嘆かわしい。ショウの人格が荒廃している。もうダメだ。ここに捨て置いて行こう。
(※主人公交代です)
ショウのことは惜しかったが、新たに合流した少女と行動を共にするから寂しくないもん♪
「ねぇドジョウの彼女、ここがどこだか知ってたり……しないよね?」
「私はナマズよ。失礼な殿方ね。わざとかしら?」
「えぇ~!? さっきはドジョっ子なんて言ってごめん! ナマっ子だったんだね! ん? ナマコ?」
俺の中ではドジョウもナマズもナマコもオケラも同じだった。
周囲に茂るチンアナゴ、とっくに湿気たワサビーフ、
中空漂うウミヘビエビ、彼女に問う俺「ここはどこカニ?」
「ここは第482759宇宙、平凡なところよ」
「そっか」
チンアナゴが風に揺られてサラサラと流れていく。
「そっか、良かった良かった」
涙が止め処なく溢れてくる。平凡。普通。日常。
俺は知らない。こんなの知らない。返して、帰して、元の場所に孵して――――
「おいノイク、大丈夫か? 顔色悪いぞ?」
「え」――――
俺はびしょ濡れで、カニのふんどしの前に立っていた。
肌のところどころに卵の殻がついている。何故? 少女は? 何故?
「っで、飛び込むのか飛び込まねえのか、早くしないとカニが癌化しちまうぜ。Cancerだけにな★」
じめじめとした先の見えない森の中心で、俺たちは選択を迫られていた。