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赤い果実にご用心

作者: 高園銀

あらかじめ言っておきます。


世にも奇妙な物語があるならば、これは間違いなく世にも微妙な物語となることでしょう。


取りあえず、後書きまでご覧ください。

(こんなくだらない小説を読もうと思ってくださった皆さんの労力に敬意と感謝を払つつ)

 これは夏の暑い日の話だ。

 

 お腹が空いた。

 ふとそう思った。

 午後も夕暮れ近く、すでに日が傾き始めていた。外ではひぐらしが鳴いている。

 台所へ足を進めると、そこには握り拳大のすももが長方形の籠の中に綺麗に並べられていた。

 その実は見事な深紅に染まっていて、実においしそうだった。

 甘酸っぱいような豊潤とした香りが静かに漂っている。

「いただきっと」

 軽く水で洗って食べることにした。

 手に取ると柔らかな感触が伝わってくる。がぶりとかじり付くと予想通り瑞々《みずみず》しい果汁が口の中に広がり……ん?

 奇妙な違和感。

 

 ――ああ、今にして思えばこの時からおかしかったのだ。だが、そのときの俺は何も気付いていなかった。

 

 その正体を確かめるべく舌先で探る。

 ぷつぷつぷつ。

 すももに似つかわしくない、不調和音を奏でるような音が口の中から聞こえた途端、苦いものが感じられた。

 漢方薬によく似た味だった。

 そして――知った。――いや、すでに俺は気付いていたのかもしれない。ただそれがあまりにも理解しがたい出来事であるが故に、 それを認めることが出来なかったのだ。

 だから、退路が立たれてその時初めて俺は認識した。

 齧りかけのすももの中でわらわらとうごめく黒い“それ”を。

 その数、一匹や二匹では済まない。何十匹もの鈍く光るそれが狭い空間を犇めき合っている。

 それを見た瞬間、あらゆる感覚という感覚が消失した。外で五月蠅うるさく鳴いていたひぐらしの声も、ほのかに漂っていたすももの香りも、気怠けだるいような夏の炎暑もすべてが凍り付いた。

 普段の彼らをよく見かけているだけに、すももの中にそれがいるという状況が信じられない、否、信じたくなかった。

 

「うわああぁぁあぁあぁぁ!!」

 

 悲鳴。

 開かれた口から溢れてきたものは声だけではなかった。

 俺はついさっき、その果実を食べたのだ。ならば――それが口の中にいないと誰がいえるのだ?

 そして当然のように苦痛に歪む口からそれは湧いて出た。

 顔中に四散する嫌悪。

 最早もはやそのときの俺に理性で行動するということは不可能だった。

 それは至るところを――髪、鼻、耳、そして手の平を動き回る。

 わらわら、わらわら、わらわらと蠢く。

 全身の毛が逆立つ感覚。

 腕を振っても細い足の何処にそんな力があるのか、まったく落ちない。

 口の中にいたそれを何匹飲み込んだのか、振り払おうとして何匹を潰したのか。

 赤とも黒ともつかない液体が弾ける。

 噛まれた痛みが体内を走りぬける。

 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、うあああ、ああああああああああああっ!

「あああぁぅッ! うわあああぁあぁ!」

 

 それは俺にとって、すぐそこにあるにある地獄だった。

 

 

 その日からすももを口にすることはなかった……。






実話です。





どうなんでしょうね?

これはホラーなんでしょうか?

甚だ疑問ですが、取り敢えず一番近いのがホラーだったということで。

強いてい言うならば、現代に潜む身近な恐怖となりますか……。

落ちをつけるため、あえてノンフィクションとはしませんでした。


もっと違うものを期待してくださった方には申し訳ありませんでした。

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