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006

 それからほんの数泊の間に、センシは信じられない光景を目の当たりにする。


 カダイラ同士の同志討ちによる自滅の破滅。


 その光景を表す言葉は『凄惨』の一言で事足りる。

 あまりにも濃厚な血の気配に意識を手放しそうになる。しかし、本能が意識を手放すことを許さずその光景を見守るしかできなかった。やがて、一際体躯の大きい一体のカダイラが仲間であるはずのカダイラの首を刎ねて残った。


 その前にひらりと舞い降りた少年。どこにいたのかセンシには分からなかったが、その少年が救いの天使に見えた。

 が、一人と一体が交錯したかと思ったら、少年は嘆息し、魔物は鼻息も荒く咆哮する。


―ダメかもしれない。


 推移を見守っていたセンシの率直な感想だった。


 救いの天使は、あっという間に非力な戦士にその存在を格下げされた。


 ニヤリ。


 『非力な戦士』サクは、それでも不敵に(わら)う。目の前の敵は間違いなく、今の己では越えられそうもない遥か高い壁。彼はこういう存在こそを待っていた。そんな存在を求め、越えるために旅を続けているのだから。


 この戦いが終わり、自分が生き残っていた時、それは確実に自分の成長になる。それこそがサクの望む姿。だから、サクは諦めない。最期のその一瞬まで命の煌めきを信じ続けることができる。それは、サクのもう一つの強さかもしれない。


 が、現状、圧倒的に筋力が足りない。その差は生半(なまなか)では埋まらない。それも厳然たる事実である。


 サクは腰に吊り下げていた鉈を左手に携えると腕を交差し体の前で構えた。


 変則的な二刀流。


 力で敵わなければ、手数で圧倒すれば良い。いっそ短絡的な結論でもって相対する。


 一方のカダイラリーダーといえば、愚直なまでに暴力に頼った。己を育んだそれに僅かながらの理性によるリミットを外す。筋肉が一層膨らんだ様な気もしないでもない。


 センシの目には、目の前で繰り広げられる闘いは、手数で圧倒するサクが優勢に見える。左右上下、縦横無尽に繰り広げられるその攻撃は、いっそ演舞と形容しても良いほど見る者の目を引き付ける。しかし、その一撃ずつはやはり軽くどれも致命傷足らしめない。相手から一撃でも貰えば致命傷と思われるその状況は見ている方にも緊張を強いる。


 数舜が数刻にも思える時間、息も切らさず圧倒的な速度で斬り続けるサクが凄いのか、それでも倒れないカダイラが凄いのか、状況は未だ膠着している。


 膠着状態が崩れるのは往々にして一瞬の隙である。


 どちらもその隙を見せぬまま闘い続け、サクが大きく後ろに跳躍することで一旦距離を置いた。


 それは、天の配剤か、或いは只の悪戯か。サクの着地点の傍にはセンシが固唾を呑んでこの闘いを見守っていた。いくらなんでもサクも激闘の最中、センシの傍に着地しようと狙ってはいなかった。


「無事か」

思わず漏れ出たその言葉。


「ええ」

サクには、その一言で充分だった。


 サクは激闘にあっても、その気配を察知していた。恐らく彼女があの悲鳴の正体だと当りを付け、その無事な姿を確認し気の抜けない闘いの中、安堵するという器用な真似もしていた。未だ付かぬ勝負の中、手放しで喜べないのが少々悔しいが、偶然であってもその一瞬の邂逅は、この闘いの天秤を僅かながらに傾かせた。


 センシは反射的にある物を渡そうとする。

 気配で感じ取ったサクが後ろ手に渡されたそれ。チラリと確認し、思わず漏れたのは笑みだった。


 それは『非力』が『微力』になるくらいには、サクに力を与えるものだった。


 ふぅうぅ


 互いに大きな息を吐き出し、丹田に力を籠める。


 次が決着だと覚悟を固め、ゆっくりと一歩を踏み出す。

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