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005

お久しぶりです。

 サクは、体重を感じさせない軽やかさで木から降りると、自らが育て上げたであろう大群の幕引きをしたカダイラのリーダーと相対した。サクは、腰に下げたすらりとした小剣を鞘から抜き放つ。ここまで来て、彼との戦闘は避けられないし、避けようとも思わない。その在り方は忌み嫌われるカダイラの姿とかけ離れており、強敵を前に一種の興奮さえ湧き上がる。


 カダイラリーダーの濁った双眸が、自らの前に姿を現したサクを見付けると妖しく光った。


-目の前の人間が元凶である。


 その眼がサクを見据える。纏う雰囲気が一気に膨れ上がる。強者のそれは、否応なしに場の緊張感を高めていく。


 一触即発。


 先に動いたのは、カダイラだった。武器である戦斧を振り上げ、無骨なまでに突進する。

 決して速くない余裕で躱せるそれを、しかし、サクは避けずに引き付ける。間合いに入り振り下ろされた斧を紙一重で避けると、小剣を撫切りにする。


 しかしその攻撃は、極、浅く脇腹に一筋の傷を付けるに留まる。


 そして、彼我の位置が入れ替わる。その頃にはカダイラの傷は塞がっていた。事ここに至って、サクは己の力のなさに嘆息する。サクの武器はその卓越した速度を生かした体捌きである。そのため切れ味の鋭い小剣を主武器にした。その結果、犠牲にしたのが筋力であり、力だった。目の前の敵とは真逆である。


 一方のカダイラリーダーは、圧倒的な暴力でその地位を、群れを築いてきた。それは本能の赴くまま、大きな力を求め続けた結果だった。が、己のたった一瞬の隙で大群を失った。失った大群の怨念が更に力を与えているようで、かつてない昂揚感に自我を持っていかれてしまいそうなほどだ。


 速度VS力


 どちらに軍配が上がるのか分からない戦いの幕開けである。


 一人と一体の間に横たわる緊張。今にも爆発してしまいそうなその緊張感に息を呑む人影があった。


 それは少女といっても過言ではない、まだ発育段階にある女性。彼女、センシ・シャウベールは絶望の淵にいた。そう。センシこそがサクの聞いた悲鳴の主だった。


 朝、センシはいつも通り薬草を採取しに森に向かった。彼女の家は代々営む薬師の家系であり、クルーセンでは知らぬ者がいないほど効能の高い薬を安く商うので有名だった。一口に薬草とはいってもただ引き千切れば良いというものではなく、生育域の環境に合わせ(しか)るべき処理をしなければその効能を十全に発揮してくれない。


 大半の薬師はその事を知らず、薬草の量の問題だと誤解している。そのためいつも大量に冒険者に納品を依頼する。毎日大量に届く薬草たちはその生育域もバラバラで、その処理の仕方もバラバラだった。それではシャウベール家に代々伝わる薬草の深遠にはたどり着けないのも道理だった。

 その依頼の多くは駆け出しの冒険者たちが小遣い稼ぎに受注する。それはそれで経済が回る一端を担っているので、それが悪いとは一概には言えないが。


 センシの先祖はその同じ薬草の微妙に異なる効能に着目し、その研究を長きに亘り続けてきた。そうして辿り着いたのが、生育域ごとに異なる処理による違いだった。愚直に真面目に取り組み続けた先に見つけたその技術は口伝によりのみ伝えられ、センシはそんな先祖代々脈々と続く教えを忠実に守りながら、また、誇りにしている。今も更なる研究と共に少しずつ技術を向上させ続けていた。

 他の薬師とは圧倒的に少ない薬草で同程度の効能を得られるその薬は安価に商うことを可能とした。


 先祖伝来の効能高い薬草の群生地の筆頭がこの森だった。

 この森は辺りに比べ魔素が濃いことで知られている。そのため、周囲には質の良い薬草が生え易い。しかし、魔物もそれなりの数闊歩する危険地帯でもあった。


 普段であれば、それら魔物は群れをなさず、魔物除けの香を焚けばそれほどの危険なく採取出来ていたのだ。

 しかし、今日に限ってその森がセンシに牙を剥いた。


 カダイラがあり得ないほどの群れを形成し、何かの儀式のように静かに整列していた。その醜悪な顔に嫌悪を覚え、その尋常でない数に恐れを抱いた。そうして漏れた悲鳴。あわてて両手で口を防いだが遅かった。カダイラが一斉にセンシの方を向いたかと思ったら、一体のカダイラに捕まった。


 これまでかと覚悟したセンシ。しかし、あれよあれよという間にカダイラリーダーの所までバケツリレーよろしく運ばれてしまった。生け贄のように献上され、一瞬の安堵も虚しくセンシは己の死をまたも覚悟したのだった。

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