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004

 サクは最後の仕上げとばかりに、懐からフリアンの実を一つ取り出し、口づけをした。


 振り下ろされた武器が別のカダイラに吸い込まれるような静けさで攻撃を加えた。


「ア゛」


 攻撃を受けた側か、或いは、した側か、カダイラの鳴き声が静かな空間で不気味に響いた。


 カダイラは、カダイラを傷付けた物を許さない。地の果てまで追い掛け報復する。


 以上の2点は冒険者にとって常識である。


 では、カダイラがカダイラを傷付けた場合は?


 答えは、許さない。正確にはどれほど不毛であろうと赦すことが叶わない。それは魂に刻まれている本能だからだ。カダイラの知能は低く、本能を御せるほどの理性を持ち合わせていない。


 先ず、攻撃を加えた隣のカダイラが反応した。カダイラに攻撃したカダイラを本能に従い攻撃した。それを見届けたサクは、にやりと口角を釣り上げた。後はもう、阿鼻叫喚の地獄絵図のようだった。攻撃を加えたカダイラが更に攻撃対象になり、じわじわと被害が広がっていく。その負の連鎖を誰一人として止める事ができない。


 もちろんこのカダイラの自滅を引き起こした、唯一止められるであろうサクも止める気はない。


 カダイラの自滅。

 これは、普通に起こり得る。カダイラは残念ながら、非常に残念ながら知能が低く本能に忠実な魔物であった。カダイラが自滅しようが、むしろ、自滅して数を減らしてくれた方が人間たちにとって都合が良いため表面化することはなかったが、些細なきっかけで同族同士が傷付けあってしまうことは間々、あった。


 ここでカダイラの生態を少し。


 まず特筆すべきはその繁殖力。年に4回、一体の個体(メス)が3~5体の幼体を産む。その幼体も2~3年で成体となり、繁殖できる身体になる。平均寿命は15年とそれほど長生きには聞こえないが、それは人間に見付かると間引かれたり、自滅をしているからで、とある研究筋では30年以上生きた個体もいたらしい。

 群れが大きくなるにつれて、より強力なリーダーが存在するのも1つの特徴だろう。一瞬のいざこざが文字通り命取りの細い綱を渡るような本能に支配を任せると、その群れは大きくなり得ない。より強い個体の言うことを絶対的に守ることで、少しでも生き残る確率を上げているのだ。


「ア゛ア゛ァァア゛!」


 リーダーの個体だろう。他とは一線を画す、鈍色に輝く鎧を身に纏った、カダイラにしては精悍な顔付きの1体が咆哮した。


 それは濁流と化し、己では止める事が出来ない自滅への悔しさだろうか。或いは、ただただ、不毛に血塗られていく同胞たちへの精一杯の手向けだったかもしれない。


 リーダーは、カダイラには珍しく自制心を持っていた。この惨劇に加わらなかったのだ。たとえ武器を持つ手が震えようと、一歩たりとも動かなかった。本能を僅かながらに超える理性を持ち合わせていたのかもしれない。その自制心の強さがリーダーの強さを示しているようで、サクは一人、気を引き締めた。


 数拍(数分)後、緑色の皮膚の一切が見えないほど、青味がかったの返り血を全身に浴びた一体のカダイラが残った。


 ゆっくりとリーダーの元へ近付いて行く。そして、跪き、その首を晒した。それはまるで、断頭台に自ら赴く死刑囚の様で、しかし、そこに悲愴感は微塵も感じない。むしろ、その胆力は一介の老騎士の様な雰囲気さえ醸している。


 リーダーはゆっくりとその首に戦斧を下した。


「グガア゛ァァァァア゛!!」


 空気を切り裂くような咆哮が辺りに響いた。

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