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013

「あそこは、先祖代々受け継がれてきた大切な場所なんです。『決して他人に教えてはいけない』って。それに、私が行くことに意味があるというか、私でなければいけない理由があります」

センシは、必死に言葉を紡いだ。


 顔を上げたセンシのその瞳には、今までになかった強い意志がこもっている。何かを決意した人特有の気高い美しさが、輝いていた。


 サクはその表情を正確に読み取り、

「それでも俺は、君には護衛が必要だと思う」

センシの決意と真っ向から向き合った。


「だから!」

荒げそうになる声を必死に押し殺しながらも強い意志を曲げないセンシ。


 サクは両手を胸の前に掲げ、

「まぁ、待って。もう少しだけ聞いてくれない?」

一旦、センシの気を削ぐ。その言葉を受け、押し黙るセンシ。


 十舜の間を取り、センシに話しを聞く準備が整うまで待つ。


「あそこが、君にとって、とても大切な場所だってことは分かったつもりだ。だけど、おばさんの言うことも尤もなんだよ。人は簡単に死んではいけない。それなら、あの場所に死の危険がある以上、君は己を護ることを考えるべきだ」


「自分を護る?」


「ああ。だから、その護衛、俺にやらせてくれないか?」

サクの瞳に真摯な光が宿る。その光は、陽だまりに降り注ぐ陽光の様な、包み込まれるような温かさがあった。


 思いも掛けなかったその提案に、思考の渦に飲み込まれるセンシ。黙り込むセンシに、サクは安心感を与える穏やかな声で語りかける。


「そりゃあ、いきなり全面的に信用してくれなんて言えないけどさ、俺は誰かの“大切”を護る手伝いがしたくて旅をしてるんだ。その為には、強くなくちゃいけない。実際に見ただろ? 俺は強いぞ。それに、まだまだ強くなる」


 屈託なく弾けるように笑うその顔に、先程のドヤ顔に含まれていた胡散臭さは皆無だった。


 センシは不意に父母の顔を想い出す。

 どちらも、柔らかく、穏やかに笑う人だった。今のサクと同じように。


 センシの父は、数年前、薬草採取に行ったある日、魔物に襲われたであろう深手を負って、とある冒険者パーティーに抱えられ青白い顔で帰って来た。薬店の店主だけあり自身で行った応急処置は完璧だった。

 しかし、如何せん傷が深すぎた。なまじ処置が完璧だったばかりに、居合わせた冒険者たちは、傷の深さまで確認をしなかった。父と冒険者たちが出会った時点では受け答えもハッキリとしていたのも要因だろう。結果、治療が後手に回り、日毎に衰弱していった。店中をひっくり返す勢いで母もセンシも懸命に看病したが、やがて、数日後、願い叶わず帰らぬ人となったのだった。


 翌日から、哀しみに暮れる間もなく、センシの薬師としての修業が始まった。


 母は持てる総ての技術で以ってセンシを仕込み、センシも鬼気迫る母に置いて行かれぬようにと良く励んだ。やるべきことがあることで、母娘は日々を哀しみに囚われず過ごした。そんな日々が続き、センシが薬師として一人前になろうかとする頃、今度は母が病に倒れてしまう。どんなに薬効の高い薬を用いても決して癒せぬその病は、センシの小さな手の中から母を連れて逝ってしまった。


「すまん」

「ごめんなさい」


 それぞれ、父と母の遺した言葉。


『待って。行かないで』

 何度、悪夢に苛まれ、冷や汗と共に深夜に跳ね起きた事だろう。

『なぜですか? わたしが悪い子だったから?』

 何度、早くに両親を連れて行ってしまった神に尋ねた事だろう。


 当然、答えは得られなかった。それでも、フルールを筆頭に周りの人に支えられ、何とか今日まで生きてきたのだ。

 しかし、自分にも命の危機は迫って来た。


 この世界の命は余りにも軽やかに、少女の手から零れ落ちてしまう。


「このままで、良いのかい?」


 センシの耳に、ここには居ない、誰かの声が聞こえた気がした。

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