011
フルールは、俯いたまま呟くように説明するセンシの言葉に黙って耳を傾けていた。
―変わらないねぇ
“怒られる。コワイ。”
センシの全身から、小動物の様な雰囲気が発せられている。それでもこの子は嘘を吐かない。否、吐けない。言葉の中でも取り分け嘘の持つ力を正確に把握しているからだ。フルールはそんなセンシを本当の娘の様に見守って来た。
センシはもう16才。ただただ守ってもらうだけの子どもではない。そんなことは分かっている。それに、我が子達とは違う。所詮は赤の他人の子。それも分かっている。だけど・・・この子は変わらずこのまま真っ直ぐに育って欲しい。そんな風に思える子はこのクルーレン中を探したって、我が子達を除けばセンシだけだ。だったら、私は厭われようが、この子の親代わりを続けさせてもらうのさ。フルールはキッと眦を吊り上げる。
「センシちゃん!」
大声とは違う、威厳の籠った声でフルールが呼んだ。
センシはビクッと思わず背筋を伸ばした。そして、ハッとした表情でフルールの顔から目を逸らせずにいる。
「良かったよぉ~。良かった。あなたがここにいてくれる。それだけで私は嬉しい。だけど、もう二度と危ない事はしないでおくれな。あなたには未来がある。こんなおばさんを気遣ってくれる優しさがある。だからこそあなたはその若さで死んじゃあいけない。あなたは世の中に必要な人だから。これからもっと良い人生が待っている。だからきっと神様があなたを助けてくれたんだ」
フルールは、精一杯、怒ったような表情を取り繕いながら、泣いていた。目から溢れる涙を拭おうともせず、ただただセンシのことを心配して、顔がグジュグジュになろうとお構いなく、泣いていた。
祈るように、両手を胸の前で組んだまま。
センシの瞳に光るモノ。
センシの感情に呼応して、込み上げるモノがあった。
―ここまで自分を心配してくれる人がどれほどの数いるだろうか。いや、いない。
センシはそう思うと、体が勝手に動き出す。
フルールの両手に自身の両手を重ね、膝をつき、見上げる。
「ごめんなざぁ~い」
もう、ダメだった。堰を切ったように溢れだす涙。
薬茶と菓子で取り繕われた雰囲気が、2人の涙で流される。
2人はいつしか抱き合いながらそれでもウォンウォン泣き続けた。
サクは、思った。
―あれ? これ、俺、忘れられてね?
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