表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

011

 フルールは、(うつむ)いたまま(つぶや)くように説明するセンシの言葉に黙って耳を傾けていた。


―変わらないねぇ


 “怒られる。コワイ。”

 センシの全身から、小動物の様な雰囲気が発せられている。それでもこの子は嘘を吐かない。否、吐けない。言葉の中でも取り分け()()()()()を正確に把握しているからだ。フルールはそんなセンシを本当の娘の様に見守って来た。

 センシはもう16才。ただただ守ってもらうだけの子どもではない。そんなことは分かっている。それに、我が子達とは違う。所詮は赤の他人の子。それも分かっている。だけど・・・この子は変わらずこのまま真っ直ぐに育って欲しい。そんな風に思える子はこのクルーレン中を探したって、我が子達を除けばセンシだけだ。だったら、私は厭われようが、この子の親代わりを続けさせてもらうのさ。フルールはキッと(まなじり)を吊り上げる。


「センシちゃん!」

大声とは違う、威厳の籠った声でフルールが呼んだ。


 センシはビクッと思わず背筋を伸ばした。そして、ハッとした表情でフルールの顔から目を逸らせずにいる。


「良かったよぉ~。良かった。あなたがここにいてくれる。それだけで私は嬉しい。だけど、もう二度と危ない事はしないでおくれな。あなたには未来がある。こんなおばさんを気遣ってくれる優しさがある。だからこそあなたはその若さで死んじゃあいけない。あなたは世の中に必要な人だから。これからもっと良い人生が待っている。だからきっと神様があなたを助けてくれたんだ」


 フルールは、精一杯、()()()()()()()()を取り繕いながら、泣いていた。目から溢れる涙を拭おうともせず、ただただセンシのことを心配して、顔がグジュグジュになろうとお構いなく、泣いていた。

 祈るように、両手を胸の前で組んだまま。


 センシの瞳に光るモノ。

 センシの感情に呼応して、込み上げるモノがあった。


―ここまで自分を心配してくれる人がどれほどの数いるだろうか。いや、いない。


 センシはそう思うと、体が勝手に動き出す。


 フルールの両手に自身の両手を重ね、膝をつき、見上げる。


「ごめんなざぁ~い」

もう、ダメだった。堰を切ったように溢れだす涙。


 薬茶と菓子で取り繕われた雰囲気が、2人の涙で流される。


 2人はいつしか抱き合いながらそれでもウォンウォン泣き続けた。


 サクは、思った。


―あれ? これ、俺、忘れられてね?

ご意見、ご感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ