7 メイドが全部、引き受けます
「揉みたいですわ」
私の住居となったこの塔は、人気というものがまるでありません。
幽閉塔……に似ている気もいたしますが、私が過ごしてきた王城の私室もこのようなつくりでしたし、暮らす事自体に違和感はありませんわ。
上階に私の部屋、書斎、空室と続き、下の階には立派な台所。
机もしっかりとしていて、ココで調理もお食事もできそうですわ。私一人が寝転がっても大丈夫なくらい広いのがとてもよいですわ。
初日はネズミの死骸もありましたけれど、それは万能メイドのカリアが綺麗に掃除してくれたので、今は清潔なものです。
直ぐ近くに水場もありますし、庭は広く、植木に囲まれていて木の実も見えます。あれは食べられますわ。巻き付いている蔓も煮て食べるといけますわ。雑草にまみれていますが、香りづけのハーブも自生しているようです。食べられますわね。近くの鳥も小さいですけれど……いけそうですわ。
近くの塀にヒビが入っていて。上の柵も壊れかけていますけれど、とても趣きがあって、故郷の私の部屋を思い出します。
ああ、なんだか今後の生活が楽しみになってきたわ。
私がそんな期待に心を踊らせていると、ドサ、と後方に重い音がいたしました。
振り向くと、沢山の食料、生活用品を抱えたカリアがおりました。
「まあ!」
声をあげます。
カリアは私に目をとめると、その手で動くなと制します。
「少々お待ち下さい」
私のキラキラとした目を見て、何を欲しているのかわかったのでしょう。
カリアはコクリと頷くと荷を置きスカートをたくし上げました。
あらあら。
「そう急がなくても」
そういう間にも、カリアの手は動きます。私は耐え切れず、手をわきわきさせてしましましたわ。
――結果、鎖付きの暗器が目にも留まらぬ速さで窓を突き抜け、荷物をおいた時よりも重い音が響きました。
「おまたせいたしました」
ぐえ、があああ、と音がもがき苦しむ声に、ようやく衛兵がかけつけます。もうその頃には、その侵入者は暗器に仕込まれた毒で息絶えておりましたけれど。
「ゴミが」
小さく言い放つカリアは、少し高揚しているのか頬がピンク色ですの。無表情で、息ひとつ乱しておりません。さすがですわ。
ああ、羨ましいそのスタイル。メイド服に隠れてはおりますが、カリアったらボンキュボンですの。きゅ、ですの。昔は私とほとんど変わらない体型でしたのに、今や雲泥の差! ああ羨ましい、妬ましいですわ。
それでも愛らしい私のメイドですの。
「さあさ、カリア。もうよろしいでしょ。この部屋一体に守護と防音の魔法をかけて頂戴」
「はい」
待ちに待ったこの瞬間、閉鎖された部屋でやることといえば一つですわ。
「こねたいですわ」
わきわきと、それぞれの指を動かします。
カリアが小さく首を振りました。
嫌な予感が致します。
私はに詰め寄ると、その肩を引き寄せました。
しかしカリアは申し訳無さそうに下を向くのです。視線の先にあるのは。
「……む……ぃこ……」
私は勢いあまってカリアに駆け寄りました。
「小麦粉はありませんの!」