5
王女が去るのを見届けて、騎士たちは王子クロヴィエから手を離した。
「お前たち……邪魔をして!」
怒鳴りつけるクロヴィエの声は、力強くよく通る。
戦火の中であれば、兵士たちの士気を高めることができるだろう。
しかしここは王宮の中である。
騎士たちは心のなかでため息をつくと、王子に頭を下げた。
「申し訳ございません。しかしこれも王の命。クロヴィエ王子におかれましては、それをお忘れなきよう」
そう言ってクロヴィエを制したのは、年長の騎士ゲルドだった。
「ふん、わかっている」
幼い頃から、剣術の指南役にもなっていた彼をクロヴィエが無碍にできるはずもない。頷くと自分の怒りを押さえるために、目をつむった。
勇ましく、潔い王子の姿に、周りの騎士達は感嘆する。
同時に、先ほどの王女の様子を思い出し、憤りも感じた。
トリムルト王国の第一王女スカーレット。
彼女は、王子から聞いた通りの娘だった。
馬車から降り立った時、厚い化粧にかくれた鋭い視線に、迎えた人々は固まった。
用意した部屋を間違えた臣下があわてて駆けつけると、ひどい嫌味を言われ、クロヴィエがそれに怒り「捨て置け。今日からあいつにくれてやる」とそこが王女の住まいになった。そこは先々代の王が息子たちを折檻するために建てさせ、その後先代の王の時代に労働者の仮眠施設となり、今世の王が捨ておいた場所だった。王女は廃墟のようなその住まいに、いぶかしがることもないらしい。
そして今日、王と后への謁見と簡易の婚姻の儀をすませた。
王宮に出向くその姿も、独特で、化粧は濃く装飾方なドレスはその虚栄心を表しているようだった。青いまぶたに濃いアイライン、口紅も頬も赤くして、きつい顔立ちをさらに強調していたが、あきらかに厚化粧で肌から浮いてしまっている。小国でしつらえたという白い服はふんだんにつかわれた金糸の刺繍にごてごてと首周りから指先まで覆われ、化粧とあわせるとそれだけで重々しい。家臣からは案ずる声もあったが、王子はそれを制して「恥をかかせるだけかかしておけ」と切り捨てた。
王と妃は微笑をたたえ、王女の格好を笑うことも、諌めることもなかった。
ただ、王女の受け答えとその奇抜な風体に周囲の者はぎょっと目を見開き、王女が去った跡にコソコソと扇を寄せ、手を寄せて話していたので、おそらく今日中には城のすべての者に、そして十日もすれば王都に王女の傲慢な様子が広がるだろう。
久方ぶりに婚約者であるクロヴィエと対面してみれば、見目麗しいその姿を穴が空くほど眺めておきながら、フン、と鼻を鳴らす。それがあまりに予想外で、騎士たちは目を見張った。心配をしたクロヴィエが引き止めれば、苦言にぼろぼろと毒のような言葉を返す。そこかしこに嫌味が潜み、クロヴィエは自身を律しきれず毒を返した。




