16 メイドが優秀でパン美味しい
分かっていただきたいことがありますの。
それは、私がを好きでも嫌いでもないということ。
だって、私、好きというほどには妹のことを知りません。あえて嫌いというには、あの子は性悪というわけでもございませんの。
すべては無知のなせること。
そして甘えられる存在があるのならば、その能力でもって甘え、生き延びるのは、聖女の性です。
ですけれど、私の伴侶に関わるとなれば別ですわ。だって、政策だから我慢ができるとはいえ、他の女――しかも私の妹に欲を抱くような方はお断りですし、他人の男を寝とって無自覚であるような妹など、当然許容できません。
私は私であるのは、ひとえにパン屋の娘として生きることができるからです。
そうでなければ、あの王城の小さな部屋で、ひとしきり狂った後に果てたでしょう。
ああ、あの時の家出は、本当に私の光明となりました。
発酵種はないものの、よく練り込み空気を含ませたパンは、はちみつの力も借りて柔らかく仕上がっています。そこ甘みのあるドライフルーツを混ぜ込み、はちみつを帯のように残します。まとめたパンはそれでも平べったく伸びてしまいますけれど、薄焼きにすればその硬さは気になりませんし、腐敗を促すようなものも最小限ですから、一週間は持ちますわ。その間に折を見て発酵種を城の台所から頂戴いたしましょう。パンを焼く者にとって、優れた発酵種は奪われるなど許すことの出来ない宝物ではありますけれど、私にはカリアがおりますし、それ以外の素材には手を出さないのですからお許し頂きたいわ。
ベタベタと数枚作っては焼き、作っては焼き、その場にパンの焼ける香ばしい匂いが立ち込めます。
暖炉の側は魔法式のオーブンの熱をはらんで汗が滴り落ちるほどです。お父さんの魔法でも、この距離の熱というのは防ぎようがありません。
私の手は火を映して赤く色づきます。ジュ、とパンが弾けて生地が焼ける音がしました。
「はちみつにも発酵種のようなものがあるのかしら」
私はまだまだ勉強不足です。ぷくぷくと生地の中の空気が膨らみ、弾け、中でとどまり生地が少し膨らむのを見てもそれがどのような状況なのかは把握できません。いつも焼いていたパンとは、素材も作り方も様子も違うのですもの。
焼き過ぎや生焼けを防ぎたいのですけれど……、生地はそこまで分厚くありませんから、以前焼いた似たような形状のパンの時と同じように取り出すことにします。
深呼吸をして、小さく陣を切ります。それが熱を閉じ込める合図です。この方法は、パンの様子をそのまま見ることができるので、ある程度調整が効くのですけれど、私の脆弱な魔法も消費してしまいます。やはり日々鍛錬、ですわね。
「ご主人様」
「まあカリア、まだ寝ていてもいいのよ」
あたりは少し日が出て明るくなった頃。私が早朝にパンを焼いてしまったから、カリアが起きてしまったようです。でもワクワクして日が昇ると同時にパンを焼きたくなってしまったんですもの。生地も十分に馴染んでいたし、許してほしいわ。




