プロローグ
「おい。貴様は今自分が何をしようとしているか理解しているのか?」
重厚な鎧に身を包み、長剣を手にした騎士は尋ねる。
「あぁ、一応は理解してるつもりだぜ。なんせ王様が出した命令に真っ向から逆らってるようなもんだ、殺されたって文句も言えやしねぇだろうさ」
応えるのは革製の軽装で簡素な防具に身を包んだ青年だ。
「理解しているのであらば致し方あるまい。いくら貴様が異世界から召喚された勇者であろうとも、我が主君に仇なす者を放置することはできない。今この場で貴様を始末する」
剣の切っ先を青年に向けるようにして構えをとる騎士。
「いいのかよ独断でそんな大事なことを決めちまって。一応俺はアンタの主がわざわざ異世界くんだりから呼び寄せた勇者なんだろ?叱られても知らないぜ?」
剣を向けられてもそれを意に介したようすもなく、むしろ相手を挑発するような言動をとる青年。
「構わないさ。元より貴様のことを勇者などと思っているものなど一人たりとも居はしないのだから、なにせ」
騎士はふん、と一つ鼻を鳴らし相手を見下すような視線を青年へと送り、言葉の続きを口にする。
「魔力を持ってすらいないのだからな」
言葉を言い終えるやいなや、騎士は身を屈め地面を力強く蹴り上げ一足で青年の元へと肉薄すると体を捻り両手で握り込んだ剣を左側へと回す。
「終わりだ、雑兵」
吐き捨てるようにそう口にした直後、唸りを上げる一閃が青年に向けて放たれた。