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「満開のディールは綺麗だのう。濃い赤の花が低木に見事咲いておるわ。」


今が夕暮れ時であることが残念だ。

昼の光の下ではもっと綺麗に見えただろう。

とはいえ夕暮れ時のディールも壮観だ。


恐らく二度と見ることはできないであろう風景を目に焼き付ける。


「そうだね。ディールは綺麗だよ。」


ただディールを見つめていたクラウス様がぽつりとつぶやいた。

そして私の方を向く。


「そんなことよりさ、リージュは僕にほいほい着いて来てよかったの? 僕はリージュのことが好きだと言ったはずだよ。余程異性として考えてもらえてないのかな?」


突然クラウス様の醸し出している雰囲気が変わる。

威圧感を感じてじわじわ後ろにさがるが、少ししたところで壁にぶつかってしまった。

クラウス様の両手が壁につけられ、逃げ場を封じられてしまう。


「そ、そんなことは……。」


口からは否定を表す言葉が出るが、告白されたことをそこまで意識していなかったことは事実だ。

そのことに気づいて俯こうとする。

しかしクラウス様にあごを押さえられ、視線を固定される。


「どうやったらリージュは僕の事を見てくれるのかな? いっそのこと犯せば僕の事を異性だと理解してくれる?」


「す、すまぬ。今! 今理解したぞえ!」


今にも迫ってきそうなクラウス様の様子に、つい本音が口からこぼれ出る。

するとクラウス様は壁から手を離し笑い始めた。


「ぷっ、それは、反則だよ。でも、期待してるねっ。」


今がチャンスだ!

ぱっと体を翻し、クラウス様から逃げる。

なんとなく見覚えのある場所を曲がっていき、なんとか部屋にたどり着いた。

よ、よし、もうお風呂に入って寝よう。

何も食べていないがすでにおなかがいっぱいだった。





「な、なんでまたこの部屋にくるのじゃ……? 包帯もしておらぬし……。」


迫られた翌日もクラウス様が平然と部屋にやってきて唖然とする。

しかし、クラウス様はただ晴れやかに笑った。


「えー? 包帯してたら邪魔でしょう? リージュの表情も良く見えない。」


「それで良いのかえ?」


「いや、良くないけれど、リージュに迫るにはこっちのほうがいいかなと思って。」


せ、迫る!?

昨日みたいのを繰り返すということ?

む、無理……。

今までにないほど心の内が荒れる。


「そうだな、リージュが静闇の館に毎日来てくれるなら、そっちの方がうれしいかな。やっぱり包帯してないと問題があるから。」


「わ、妾が行くのかえ?」


「うん、侍女を連れてきてもいいよ。」


侍女を……。

しかし侍女を連れて行ったところで身の安全は確保されるのだろうか?

また昨日みたいな状態になってしまったら危険だと思う。

この部屋なら城の中だから叫べば誰かしらがとんでくるけれど……。


「そんなに悩まなくても良いよ。いつも通り僕がリージュの部屋に来るから。でも、包帯をとっているのは今日だけかな。流石にこの状態はまずいから。」


切なそうに微笑んだクラウス様に一瞬視線を奪われる。

いや、違うよ。

うん。

別に綺麗とか思ってないよ。

誰に言うでもなく、そう言い訳をする。


「……そんなに怖いものかえ? 妾は特になんともないがのう。」


ちらりと侍女たちの様子を見まわしたが、侍女たちも特に怯えた様子を見せていない。

私も何ともないのだけれど……。


「そう? 一番最初に会った時は怯えてなかった?」


「あれは……。しかし今では怖くないぞえ。」


「そうなんだ。それは嬉しいな。」


クラウス様がニコリと微笑んだ。


「そういえばさ、父上がリージュのこと呼んでるんだ。言い忘れてたけど。」


「公爵が妾のことを? なぜもっと早くに言わぬ!」


慌てて立ち上がるとドレスの裾を踏み、転びそうになった。

しかしクラウス様が腰を掴み、転倒を防いでくれた。


「危ないでしょ。まったくリージュはそそっかしいんだから。」


「う……、すまぬ。」


そそっかしいなど久しぶりに言われた。

もう子供ではないというのに……。

恥ずかしさで顔が赤くなる。

するとクラウス様が微笑んだ。


「かわいい。」


小さな声ではあったものの密着しているためよく聞こえた。

その言葉を理解すると同時に顔がさらに赤く染まる。

赤くなった耳が珍しいのか、クラウス様が耳たぶに軽く触れた。

そして頭をひと撫でした後、手を引いて進み始めた。


ノックをして入った部屋には公爵が座っていた。

公爵は少し疲れた様子で手紙を差し出してきた。


「ありがたいのう。」


なぜ私宛の手紙を公爵が持っているのか不思議だったが、とりあえずお礼を言って受け取る。

すると公爵は手で開封するように促してきた。

よく分からないけれど、手紙を開けてみると私とクラウス様の婚約が決まったという旨が書いてあった。


「え? な? へっ?」


驚きすぎて言葉にすらならない変な声がでる。

クラウス様と婚約?

結婚を前提にという内容なのだけれど……。

もう一度しっかりと読み直してみるが、内容が変わることはなかった。

むしろルーディンス王国の国王の御璽が押してあことが分かった。


「嬉しい? 実はリージュに会った日に頼んだんだ。思ったより早くて驚いたけれど、外交官が優秀だったんだね。」


ニコニコとクラウス様が笑う。

呆然と嬉しそうなその顔を見上げると、クラウス様に頬を撫でられた。


「2人だけの空気を作り出しているところを悪いのですが、今後の日程だけは確認させてください。まず、リージュ様はこのままメリアーノにいてください。婚約や結婚用の物資は後でルーディンス王国から届く手はずになっています。そして婚約発表はマレンツと同時でいいでしょうか?」


「そうですね。一応僕の方が年上だから、出来ればマレンツより早いか同時がいいと思います。」


恐らく私に対して公爵が言っていたのだと思うけれど、私が口を開く前にクラウス様が頷く。

しかし公爵は特に気にする様子を見せず、それで決定だというように公爵が紙に判を押した。

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