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昨日はクラウス様から逃げた後、庭で迷子になった。

偶然花を見に来た公爵夫人に会って事なきを得たものの、城の庭の広さを実感した。

もし公爵夫人と会えなければ部屋にたどり着けなかったかもしれない。

流石に庭で遭難などしたくないので本日はパーティーまで部屋に引きこもった。


公爵にパーティーに出なくていいと言われたけれど、どうすればいいのだろう。

パーティーに出席を拒否されたからにはルーディンスに帰るべきなのかもしれない。


パーティー用のドレスにこそ着替えたものの、自分がこれからどうするか悩む。

陛下に手紙を書いて帰国を許可してもらうのが一番いいのかな……。

もう私がこの国にいる意味がないから。


思い立ったが吉日とばかりに侍女から紙をもらう。

上手く羽ペンが進まなかったものの、夕暮れ時までにはなんとか書き終わった。

出来上がった手紙を封筒に入れようとした時、クラウス様が訪ねてきた。

本日はしっかりと目に包帯を巻いている。


「こんにちは、リージュ。前に言ってたディールが満開になったんだ。一緒に見に行かない?」


「こんにちは。嬉しいお誘いじゃが、本日はこれからパーティーに行かねばならぬ。すまぬが一緒には行けぬ。」


もう二度とメリアーノ公国に来ることはないかもしれない。

それなら、ルーディンスに帰る前に一度はディールを見てみたい。

しかし来なくていいと言われたとはいえ、特に問題を起こしたわけではないからパーティーに出席した方がいいと思う。

入り口で拒絶されたらどうしようもないけれど……。

そう考えてクラウス様を見るとクラウス様が笑った。


「リージュはパーティーに出なくて大丈夫だよ。ここだけの話マレンツの正妻候補はすでに数人まで絞られているからね。」


「そうであったのか。じゃが、せっかくこの国に招いていただいた以上、正式に決まるまでの間はパーティーに出るべきなのではないかのう?」


「あのね、毎日パーティーに参加しているのなんて本気で正妻を狙ってる人かリージュしかいないよ。他の国からの来賓は欠席して観光してる人もいる。リージュは真面目すぎるよ。」


「そ、そうなのかえ?」


パーティに呼ばれたからには毎日出席しなければならないと思ってた……。

まさか、そういうものだったとは……。

予想外すぎて固まる私にクラウス様が手を差し出してきた。


「他国から正妻をめとることは今後もないだろうからね。よほどのことがない限り。だから一緒にディール見に行こう? 明日だったらもう花が落ちてしまうかもしれない。」


「うーむ、じゃがのう……。」


満開のディールは見てみたい。

しかし他の人も遊んでいるからといって私まで遊んでいいのだろうか。

ためらってしまいクラウス様の手を取ることができない。

するとクラウス様が耳元に口を寄せてきた。


「リージュの事マレンツなんかに渡すわけないじゃん。ねぇ、僕と一緒にきてよ。僕の事嫌いなの?」


ゾクッとくるような低い声を聴いて慌ててクラウス様の手を取る。

耳元から離れたクラウス様の顔を見ると微笑んでいた。


「いい子だね。それじゃあ、行こうか。」


満足そうにゆっくりと歩くクラウス様に手を引かれ庭を歩く。

道を覚えておかないとまた迷子になりそう。

でも広すぎてもうよく分からないかもしれない……。

無事に帰れるといいな。


必死にどこでまがったかなどを覚えているとクラウス様が唐突に立ち止まった。


「これがディールだよ。本当は静闇せいあんの館から見るのが一番きれいなんだけどね。」


「静闇の館?」


よく見てみるとディールは静闇の館を取り囲むようにして植えられているようだ。

まるでディールが檻のような……。


「ディールは柵なんだ。静闇の館から王種がでてこないようにするための。」


ぽつりと呟かれた言葉を聞いて驚く。

王種?

よく分からないけれど、王族ということ?

でもメリアーノ公国は公爵家が治めているはず。

王などいないはずなのに、一体……。


ただ冷たい目でディールの奥に建つ静闇の館をクラウス様が見つめる。

もしかしたら呟いたことにすら気づいていないのかもしれない。

クラウス様を見上げると、クラウス様が視線に気づいてか見返してきた。


「静闇の館に入ってみる?」


「え? いや、じゃがのう……。」


先ほどの呟きを聞いてしまった今では目の前の館が何やら恐ろしいものに思える。

そんな私に気づいてか気づかないままにかクラウス様が私の手を引いたまま静闇の館に入った。

館の中は綺麗に掃除されており、窓から光も多く入ってくる。


「怖くない……?」


予想外に整えられている館内に驚き、つい言葉が漏れた。

するとクラウス様が微笑んだ。


「怖くなんてないさ。最初に僕とリージュが出会ったのもこの館だよ。しっかりと侍女もいるしね。」


「そうであったか。ディールが囲い込むようにして植えられておったから、何かあるのかと思ったが違うようだのう。」


安心して辺りを見回すと、クラウス様が意味深に笑った。


「そうだね。静闇の館はメリアーノに住む人にとって大切で守りたくて、でも怖いものがいるんだよ。大切だけど怖いから、そのものが好きなディールで囲って外に出ないようにしている。」


「何もおらぬぞえ?」


「……うん、そうだね。」


微妙に間があり気になるが、クラウス様はこれ以上何も話す気配をみせない。

両目の包帯をとり、ただ窓の外に咲くディールを見るばかりであった。

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