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ニーアのことは疑いたくないけれど、クラウス様に失態を伝えた可能性が一番高いのはニーアだ。

クラウス様と話をしてから、そっとニーアと距離をあけた。

ニーアは気づいているだろうが特に何も言ってこなかった。

侍女としてそれ以外できないと想像できるが、特に変わらないニーアの態度がなんとも悲しい。

こんな状態では次期公爵の正妻選びのパーティーにも力が入らない。

とりあえずパーティーには出席しているものの、ここ数日は気もそぞろだ。


「元気がないようですが、何かありましたか?」


様子のおかしな私を心配してか公爵が話しかけてきた。

壁際でぼんやりと女性に囲まれていて忙しそうな次期公爵を眺めることが日課になっていた私に話しかけてくる人などいなかったため対応が出遅れる。


「……特にこれといって何もないのう。しいていうならば、次期公爵と一度くらいはダンスをしておくべきか考えておった。」


なんとなく考えていたことを口にすると公爵の顔色が悪くなった。


「ま、マレンツと踊るのですか?」


「そうじゃ。次期公爵の正妻を選ぶパーティーに出席しておいて一度も次期公爵とダンスを踊らぬというのは良くなかろう。何かおかしなことを言ったかえ?」


なぜ顔色を悪くするのか理解できずに首をかしげる。

すると公爵が悩み始めた。

眉間にしわを寄せて考えるその様子は鬼気迫っている。


「リージュ様、明日からパーティーに出なくてかまいません。本日もここで部屋にお戻りいただいてもよろいでしょうか?」


「なぜじゃ? パーティーに出席を禁じられるようなことを言ったかえ?」


突然告げられた事に驚き、強い口調で聞き返してしまった。

気づかないうちに何か禁忌をおかしてしまった?

ダンスも踊ってない。

話しをした人も数えられる程度しかいないはず。

それなのに私は何をしてしまったのだろうか……。

これまでの自分の行動を思い出していると、公爵が慌てた。


「い、いえ、そういう事ではなくてですね……。」


言葉を濁し公爵は口を閉じてしまった。

しかし、どうやら私が粗相をした訳ではないようだ。

よかった。

とはいえ理由が分からない。

公爵を見ると、公爵は何かを諦めたように肩を落とし庭に誘ってきた。

特に断る理由もないため、公爵に導かれるままに庭を歩く。

無言で歩く公爵は怖かったものの、どうやら目的地があるようだ。


ただ、ひたすらどこかへと歩いて行く公爵に手を引かれたどり着いた先にはクラウス様がいた。

しかしその目に包帯はなく、強い怒りを湛えた紅い目があった。


「マレンツと踊りたいんだって? マレンツのことが好きなの?」


はぐらかすことは許さないという強い意が伝わってくる。

質問でありながら少しでも答えを間違えると、身の安全すら分からない。

いつの間にか身体が震えているのに気付いた。

しかし黙っているということすら許されない雰囲気に何とか口を開く。


「わ、私は特にマレンツ様に恋愛的な感情を抱いてません。話したことしらありませんし……。」


震える声で見苦しくも告げると、クラウス様の雰囲気が少し和らいだ。


「そう、話したことすらないんだね。それなら、どうしてダンスしたいなんて考えたの?」


「今回私はマレンツ様の正妻が選ばれるパーティーに出席しました。ルーディンス王国の王族代表として。ですので一度もマレンツ様と踊らないということは問題ではないかと思いまして……。」


おずおずとクラウス様を見上げるとクラウス様が微笑んだ。


「別にマレンツとなんか踊らなくて大丈夫だよ。むしろ僕と踊ってほしいな。だめ?」


「かまいませんが……。」


そう言ったところで、ようやく威圧するような雰囲気が霧散する。

気持ちに余裕ができると、クラウス様の目に包帯が巻かれていないことが気になり始めた。

印象的な目だ。

個人的には好きかもしれない。

いや、そんなことよりも目が見えている?

ではあの包帯は何のため?

踊りを申し込むということはダンスが踊れるということだ。

でも初日のパーティーにもクラウス様は包帯をなさっていた。


もしや今も目が見えていないのではと思ったが、クラウス様はしっかりと見つめ返してきている。


「僕の目が見えるということが不思議? 元から目は見えてるよ。」


不躾に目を見つめ過ぎてしまったと思い、視線をそっと逸らす。


「なぜ包帯で覆っておったのじゃ?」


「僕の紅い目がメリアーノの人からすると怖いからだよ。いや、正確に言うと怖いだけじゃないらしいけど、そこら辺は僕もよく分からない。」


「怖い……。」


紅い目、怖いというキーワードからメリアーノ公国に来て最初に会った男性を思い出す。

そういえばハープを弾いていたあの男性の目も紅かった。

ちらりとクラウス様を見れば、あの男性とよく似ている気がす、る?


「も、もしやあの時の!」


そう叫ぶとクラウス様が嬉しそうに微笑んだ。


「うん、リージュは僕がハープを弾いてるところを見たよね。」


「あ、あの時はほんにすまぬかった。ふわふわとした気分で歩いておったらいつの間にかクラウス様の前にいたのじゃ。」


「別にいいよ。驚いたリージュも可愛かったから。」


「申し訳なかったのう……。なぜ、あのようなところに行ったのかもよく分からぬのじゃ……。」


そう、あの時はハープの音色と歌声に誘われて歩いた。

どうやって自分が建物の中に入ったのかすらよく分からない。

空をとんだような気がしたが、流石にそれはありえないだろう。

思い出そうにもよく思い出せず、俯く。

するとクラウス様がひと房たらしていた私の髪をなでた。


「気にしなくていいよ。リージュになら何をされても怒らないから。」


怪しげな発言をされて、勢いよくクラウス様を見る。

しかしクラウス様はただ微笑んだだけであった。


「そういえば僕の家名がなぜメリアーノだか教えると言ったよね? でも教えるのもう少し待ってほしい。」


「別にかまわぬぞ。」


どうしても聞きたかった訳ではなく、ただ話を変えるために出しただけの話題だ。

答えが返ってこなくても特に問題はない。

少し気になるくらいで。


「ごめんね、ありがとう。その時はたぶん長い話になるから覚悟しておいてね。」


「無理して教えてくれずともよい。」


「いや、リージュには知っておいてもらいたいんだ。」


「それなら、期が満ちた時にでも教えてくりゃれ。」


なぜ私に知っていてほしいのか分からないけれど、それだけ仲良くなったということなのだろうか?

もし仲良くなれたというのならば嬉しい。

初めてできた異性の友人ということになる。


嬉しさを噛みしめてクラウス様を見る。

するとクラウス様が口角を上げた。


「言っておくけど、僕はリージュのこと友人だとは思ってないからね。」


ショックのあまりうまく言葉にできず、空気が口から洩れる。

クラウス様はそんな様子を不思議そうに眺めた後、あごをつかんできた。


「僕は君の事好きだから。君以外いらないくらいに。」


真剣な表情でそう告げられ、息をのむ。

私のことが好き……?

なぜ?

そんなに何回も顔を合わせたわけじゃないのに。


混乱の極みに陥り、クラウス様の手を振り払って逃亡した。

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