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いい案も思い浮かばないままクラウス様と会う時がやってきた。

はっきり言って気が重い。

どこに行くようになどの指示をされていないため、とりあえず部屋で待機する。

鏡を見ると陰気くさい表情の自分が見返してきた。

流石にこの表情で公爵家の方と会うのはまずいと思い、鏡に向かって微笑む。

その時クラウス様が訪ねてきた。


「一昨日ぶりだね、リージュ。昨日は会えなくて寂しかった。」


両目に包帯を巻いているものの、悲しそうな雰囲気が伝わってくる。

一昨日は怖かったはずなのに、そんな表情を見ると罪悪感が湧き出てくる。


「すまなかったのう。昨日はメリアーノ公国の庭が珍しくて、ついはしゃいでしもうた。約束を破ってしもうて、ほんに申し訳なく思っておる。」


予想外に心のこもった謝罪になった。

それがクラウス様にも伝わったようでクラウス様が微笑む。


「そうだったんだ。ルーディンス王国よりこの国の方が気温が寒いからね。咲いていた花も違ったでしょう。」


「見たこともない花ばかりであった。おかげでメリアーノ公国で有名なディールとかいう花がどれだか分からぬかった。」


「あぁ、この城だとディールは結構奥まった場所に植えられているからね。たぶん昨日は見られなかったんじゃないかな。今度連れていってあげる。もう数日で満開だろうから。」


「本当かえ? あ、じゃが……。」


公爵家の方に案内してもらうのは悪いという思いと、まだクラウス様が怖い方でないと信じ切ることができない思いにより言いよどむ。

何もされなかったとはいえ一昨日のクラウス様は本当に怖かったのだ。


「僕は特に仕事もないんだ。父上には本当に申し訳ないことをしていると思うのだけれど、なんともね……。もし良かったら、君の目から見たディールを教えてくれないかな?」


「……妾で良かったら、よろこんで。」


クラウス様がゆっくりと包帯に手をやる。

その様子がいかにも寂しげであったため、気づけばそんなことを口にしていた。


「立ち話もなんじゃから、茶を用意しよう。軽食しかなくてすまぬのう。」


「そんなに長居しないから大丈夫だよ。もうそろそろ日が落ちるしね。」


クラウス様の手を引き、テーブルに案内する。

一昨日のパーティーとは違い少し危なげな様子でクラウス様が椅子に腰かけた。


「ごめんね、ありがとう。やはり慣れない部屋は辛くてね。」


申し訳なさそうにそう告げるクラウス様に私の方が申し訳ない気分になる。


「もし次にお茶をする機会があればクラウス様のなじんだ部屋でかまわぬ。本日も手紙か何かくだされば指定の場所に行ったであろう。」


「本当? 嬉しいな、ありがとう。」


ニッコリと笑ったクラウス様を見てこちらも頬が緩む。


「大したことではないのう。」


一昨日クラウス様を怖いと感じたのは勘違いだったのかもしれない。

今も笑顔でいらっしゃるけれど特に怖くない。

怖いと思ったこと自体が気のせいだと結論を出したあたりでクラウス様が口を開いた。


「そういえばさ、昨日お風呂で溺れかけたんだって?」


「な、なぜそれを……。」


予想外のことを言われ、否定することを忘れてしまう。

貴族としてあるまじき事態であるため、知られてはならないことだ。

たとえ触れられたとしても肯定してはならない。

しかしいったん認めてしまえば、もうどうすることもできない。


恐る恐るクラウス様を見上げるが、クラウス様は特に嫌悪感などを抱いておられないようだ。

ただ少し悲しそうな表情が浮かんだ。


「侍女が足りてないのかな? こちらから何人か侍女を用意しようか?」


「そ、そこまでしていただく訳にはいかぬ。妾もルーディンスから侍女を3人連れてきておる。問題ないぞえ。」


大事になりそうで慌てて否定をする。

しかしクラウス様は困ったように唇を触った。


「でも、リージュが不自由をしているということは、呼んだメリアーノの不備ということになる。だから侍女が足りてないなら遠慮なく言ってほしい。」


そうか、もし私に何かあったらメリアーノ公国が責任を取らないとならなくなる。

頭から抜けていたことを言われ驚くと同時に、なぜクラウス様がここまでこだわるのか納得した。


「分かった。心配をかけてしもうて、すまぬかった。今回は妾が油断したせいじゃ。ゆえにここだけの話にしてほしいのう。」


「リージュがそう言うのなら今回は見なかったことにするよ。でも、もし何かあったら気軽に言ってね。」


有無を言わせないその様子にコクコクと頷く。


「そうじゃの、もし何か不便があったらお願いするかのう。」


「ありがとう。」


「ところで、どこから妾が昨日風呂にて醜態を見せたと聞いたのかえ?」


お風呂での出来事を知っているのはニーアしかいないはず。

しかしニーアが私の失敗を噂として流すとは考えにくい。

いや、考えたくない。


「うーん、風の噂かな?」


「なるほどのう。風が吹く場所にはクラウス様の耳があるということじゃな。気を付けなくてはならぬのう。」


上手くはぐらかされてしまい、よくわからない。

しかし口の軽い者が近くにいるということは間違いない。

これからは身の回りに気を配らなければならないだろう。


重い気持ちになり、こっそりとため息をついた。

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