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パーティーの疲れを取りたくてお風呂の準備が終わるのを待っていると、部屋の外が騒がしくなった。


「…………!」


「………………。」


声の低さからして男性が部屋の前に来たようだ。

既に髪をおろし化粧を落とした自分の姿を考えると侍女たちが男性を部屋に入れることはないはず。

この国の知り合いなどいないため誰がどんな用事で来たのか分からないけれど、この様子では今断っても明日来る可能性が高いだろう。

面倒だと思いつつ手に持っていた紅茶を飲み干す。

ついでに軽食に手を伸ばそうとすると、扉が開いた。


「!?」


まさか開くと思わなかった扉を見て固まる。

同じく部屋の中にいる侍女たちも驚き、反応ができないでいるうちに男性が前までやってきた。


「あなたは……。いや、間違っていないはず。」


くいとあごを持ち上げられ、男性の顔が目の前に迫る。

男性は両目に包帯を巻いていた。


「…………ぱ、パーティーの時の方、かえ?」


張り付いたのどから何とか声を絞り出す。

かすれた上に小さ過ぎてもはや独り言のような言葉だったが男性が頬を緩ませたのが分かった。


「そうです。覚えていてくださったとは大変光栄です。突然で申し訳ないのですが、一緒に来ていただけませんか?」


「い、いっしょに……?」


ど、どういうこと?

確か……パーティーの時に伴侶がとか言ってたけれど、なぜここに?


混乱して目を白黒させていると男性が耳元に顔を寄せてくる。


「君は人ではないだろう?」


愉悦を含んだ色っぽい声を聴いて頭が真っ白になる。

けして知られてはならない秘密。

なぜそれをこの男は知っているのだろう?

ありえないはず……。


ただ、そんな言葉が頭を駆け巡っているうちに男性に手を引かれ歩いていたようで気づいたら公爵の前にいた。


「クラウス!? 彼女はルーディンス王国の公爵令嬢ではないか! 伴侶などと言って周りを驚かせるのはやめなさい!!」


パーティーの時とは異なり驚き必死の形相で公爵が男性をいさめる。

しかし男性は口元に笑みを浮かべ断言した。


「彼女こそ私の伴侶です。間違いはありません。」


その言葉が終わると同時に公爵夫人が倒れた。

公爵も顔色が青くなる。


「あなたはあなたの伴侶が人であるというのですか……?」


その公爵の問いかけに男性が微笑み、私の背後に立った。

そして私の両目を男性の右手が覆う。

その手が離れたとき、公爵は目を見開いて固まった。


一体なにが?

状況がよくわかららず首をかしげる。

すると男性が私の両肩に手をおろした。


「理解いただけましたか?」


淡々とではあるが否定は許さないと言うような雰囲気を男性が発する。

それに怯えてなのか公爵が青い顔のままがくがくと頷いた。


公爵が怯えている?

なぜ?


よくわからずに、瞬きをする。

そして背後の男性を見ると微笑まれた。


「では公爵も納得してくださいましたし、行きましょう。」


状況がまったくわからないまま男性に手をひかれ部屋を後にする。

どこに向かっているのかも知らないが、手を振りほどいても自分の部屋に戻る自信がないため男性に従って歩く。


「私はクラウス・メリアーノです。クラウスと呼んでください。お名前を伺ってもいいですか?」


部屋からある程度離れた後男性……クラウス様が話しかけてきた。


「妾はリージュ・クレア・カハメージュじゃ。妾のこともリージュと呼んでくれてかまわぬ。」


「では、リージュその口調はやめていただけませんか? 距離を感じます。」


「それは無理じゃの。この口調はルーディンス王家の血を引く女の義務だからのう。そなたとて敬語を使っておるではないか。」


「私が……いや、僕が普通に話せば同じようにしてくれるってこと?」


「な、なぜそこまでするのかえ? 妾はそなたと今日あったばかりのはずじゃ。特に交友を深めたわけでもなかろう。」


「へぇ、交友を深めればリージュは僕とルーディンスの口調でなく話してくれるんだね? それならリージュにその口調をやめてもらえるように頑張るよ。」


断る暇もなくクラウス様は自分で結論を出し、楽しそうに笑った。

笑っているはずなのにクラウス様の雰囲気が怖い。

その雰囲気をぶち壊したくて、わざと明るい声を出す。


「そ、そなたはなぜメリアーノが家名なのじゃ? 公爵の家名はティーヴァンのはずであろう?」


少しどもってしまったが変な空気はなくなった。

安心してクラウス様を見上げると満面の笑みを浮かべたクラウス様と目が合った。


「僕のことが気になる? うれしいなぁ。そうだな、明日にでも教えてあげるね。」


自分が質問しておいて断るとは言えないものの、先ほどよりも悪寒が走り体がびくつく。


こ、これって明日も会うということ?

すごい遠慮したい……。


「リージュはかわいいなぁ。食べちゃいたいくらい。」


耳元でそう言われてさらに大きく体が震える。

浮かべている笑顔は綺麗なはずなのに得体のしれない恐怖が体を駆け巡る。

そんな様子に気づいてるはずのクラウス様は変な顔をすることもなく、ただ頭を一度撫でると私から離れた。


「名残惜しいけど今日はこれでお別れかな。いい夢を、リージュ。」


「く、クク、クラウス様も良き夢を……。」


どもったうえに声がかすれていたが、クラウス様は満足そうに頷くと踵を返した。

クラウス様が見えなくなったころ大きく息を吐き出し、深呼吸をする。


こ、怖かったぁ。

そのまま足が震えて座り込みそうになるが、ルーディンス王国の公爵令嬢という爵位がそれを許さない。

何とかあたりを見回すとそこは与えられた部屋の前だった。

今日着いたばかりとはいえ見慣れた景色に、ようやく身体の強張りがとけた。

安堵しながら部屋の扉を開ける。

するとパーティーに行く前髪を結ってくれた侍女がいた。


「お嬢様! ご無事で何よりです。なにか変なことはされませんでしたか?」


心配顔で駆けよられ驚く。

侍女は私の全身を見回し、特に乱れた様子がないことを確認して安心したような表情を浮かべた後、すまなそうな顔になった。


「申し訳ありませんが、私以外の侍女はみな下がりました。お嬢様がいつお部屋にお戻りになるかわかりませんでしたので……。」


「かまわぬ。それよりも風呂はまだ温かいかえ?」


「はい、湯が冷めぬよう整えておりましたので問題ありません。」


その言葉を聞いてほっとする。

足の震えが治まったとはいえ、ゆっくり落ち着きたかった。


よく考えたら髪をおろし、化粧もしてない状態で公爵に会ってしまった。

次会ったときに謝らないと……。


ため息をつきながらお風呂に向かう。

侍女が体を流すというのを断り、一人で入ったお風呂は大変気持ちよく、のぼせてしまった。

結局は侍女に助け出されベットへ入った。

寝入る直前にクラウス様の得体のしれない微笑みが浮かんだ気がした。

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