7話
透とのやりとりを思いだし、重たいため息をはく美咲。
「それにしても、花飾り綺麗ね」
美咲は重たい気持ちを奮いお越すように、通りの電燈を見上げる。球体には同じ系統の色の花が飾られている。
「黒崎さんの店と他の花屋さんと総動員で作ったんだって。フラワーボールっていうんだって」
「お祭りが終わったら、どうするのかしらね」
一つ一つを、ゆっくりと眺めながら歩いていると、急に後ろから声がした。
「終わったら、欲しい人にあげるんだよ」
二人が振りかえると、紺色のズボンにに黒のシャツ、エプロン姿の海が立っていた。
「驚いた。いつの間に……」
「ごめん、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだけど、二人の姿が見えたから」
困ったような笑顔で謝る海。
「じゃあ、びっくりさせた償いに、フラワーボールを大倉美咲と八塚巴に一つずつね」
美咲はニヤリと笑う。
「わっ!そうきたか。予約は取っちゃいけないんだけど、お詫びに一つずつね。これ、結構人気なんだ」
美咲の提案を素直に快諾して、電燈を見上げる海は、少し伸びた髪を後ろで一つに結んでいる。
「黒崎さん、午後のスタンプラリー、負けませんからね」
「俺だって負けないよ」
電燈から巴に目を向ける海は、不敵な笑みを残して、“じゃあ、後でね”と、まだ残っているだろう仕事に戻っていった。
二人と別れた海は、ふと巴と付き合い始めた頃のことを思い出した。
二人のデートは、大概、水族館だった。地方まで足をのばし、水族館巡りをした。
「何処に行きたい?」
「水族館!!」
予想に反しない答えがかえってくる。
「飽きない?」
「飽きないよ」
満面の笑みできっぱりと答える巴は、はっと何かに気づいたように、恐る恐る海に聞いてきた。
「海は、飽きちゃった?」
毎回、同じ水族館に行くわけではないけれど、海にしてみれば退屈なのかもしれないと巴は思ったのだろう。
「巴となら、何処へでも」
ニッと笑って海が言えば、巴は顔を紅くする。
「どうして、そういうことサラッと言えちゃうかな……」
嘘じゃない。一緒にいられるのなら、何処だろうと構わない。これが海の正直な気持ち。
休日の水族館は、どこも混んでいる。館内をゆっくりと一周する。緩やかな螺旋をかくような建物。今回来ている水族館はよく来るので、たいして変わった所はないが巴は楽しそうだ。
「ねぇ、写真撮らない?」
クラゲの水槽を眺めながら、歌うように巴は言う。
「そんなこと出来たって?」
白く透明な生き物は、思い思いに漂っている。
「うん。ペンギンと」
そういえば確か掲示板にそんなことが書いてあったと、海は思い出す。
「いいよ」
「よかった」
巴はほっとした笑顔を海に向ける。今では言わなかったのは、海に気を遣っていたのだろう。海は、巴を愛おしく思う。
ペンギンの水槽とは別の場所。そこでは、ペンギンと触れ合えるようになっている。
二人は係りの人に頼んで、二枚写真を撮ってもらった。ペンギンを真ん中に、巴はペンギンの身長に合わせるようにしゃがんで手を繋ぐ。海はペンギンの後ろに立ち、前屈みになり、ペンギンの頭に片手に置いた。ペンギンは慣れているのか、嫌がる素振りをしなかった。愛くるしい顔で、海と巴を交互に見ていた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
写真はその場ですぐに出来た。巴は嬉しそうだった。
その写真、海はいつも手元に置いている。巴の写真は、巽が預かっていてくれる。
巴が混乱しないように。




