6話
早いもので、あっという間に夏至祭り当日をむかえた。お祭り独特の空気が流れる。
「にぎやかね」
「夏至祭りは特別だね」
二人は、金木犀の前で祭りの会場の通りを眺めていた。美咲は動きやすい白と黒のぼかしのチェックのキャロットパンツに、ドルマン袖の白いシャツ。巴は白地に赤と青のラインが水のように流れる縞の着物を、いつもより短めに着ていた。
「一緒に出てくれて、ありがとう」
「いいのよ。私だって有給使わなきゃ」
二週間前、巴から美咲に電話があった。そのとき、美咲は透の部屋にいて、窓際に立って外を見ていた。透は小説を読んでいる。
「夏至祭りのスタンプラリーに、一緒に出てくれない?」
「夏至祭りか……。いいよ。懐かしいね」
学生だった頃、よく二人で連れだって歩いた。夏至祭りは、ちょっと変わっていた。まず、屋台が珍しい。万華鏡、ビロードの小物、世の中には、綺麗なもの・不思議なものがたくさんあるんだと、そのとき学んだ。
「ありがとう。賞品が水族館の招待券なの」
「水族館、好きだもんね」
好きな人と水族館に行くのが、巴の夢だった。
「うん。あとね、黒崎さんがと勝負することになったの」
「スタンプラリーで?」
「うん!」
「それは、勝たないとね」
どうしてそうなったのかは知らないけれど、きっと海は、巴のために参加するのだろうと、美咲は考える。
「細かいことは、また連絡するね」
「わかった」
「うん」
電話を切ると、美咲は読書をしていたはずの透に、後ろから抱きしめられた。
「わっ!」
「巴ちゃんは、何て?」
「透、心臓に悪い……。夏至祭りに一緒に行って欲しいって」
「ということは、休みを取るんですよね?」
「そうよ」
首筋に、透の髪が流れてくすぐったい。
「そうですか」
後ろから抱きしめられているため、美咲には透の表情が読み取れないが、その声色は、どうやら拗ねている。
「もしかして、拗ねてる?」
美咲はちょっとからかってみる。
「はい。拗ねてます」
「あっさり認められると、何も言えないんですけど……」
素直に認めた透に、美咲は拍子抜けしてしまう。
「そうだなぁ。美咲が、水族館の招待券をとってきてくれたら許してあげます」
「なんでもそうなるの!」
「さぁ?」
あきらかに遊んでいる。
「もし、取ってこられなかったら?」
透は、結構腹黒い。美咲は、恐るおそる聞いてみた。
「そのときは……」
いったん切られた言葉は、次には甘さをともなって美咲の耳をくすぐる。
「俺をほったらかした分、俺が満足するまで、美咲に付き合ってもらいます」
「!」
“なに?”になんて聞かなくても、美咲には透が言わんとすることは分かった。
抱きしめられているのを力いっぱい振りほどき、美咲が透を振り返れば、涼しげな笑顔。
「透、黒いよ……」
「どうします?」
美咲には拒否権なんてない。かわいい親友との約束も絡んでいる。
「わかったわよ!」
顔を紅くして、やけになって美咲は答えた。
そんな美咲を見て、透は満足げだった。




