5話
「お待たせしました」
剣迩が注文したカフェ・モカが出来たとき、買い出しから巴が帰ってきた。若草色の地に白の縦縞の着物。帯には、赤紫の帯留めがよく映える。
「ただいま」
「おかえり」
「はい。新作の材料とブラウンシュガー」
よいしょと、カウンターに荷物を置く。
「剣ちゃん、いらっしゃい」
次の瞬間、夏至祭りのポスターが巴の目にとまる。
「夏至祭り!」
「さっき、町会長が持ってきたんだよ」
巽の説明を聞きながら、巴はパンフレットを手に取る。
「あっ!スタンプラリーの上位15位以内には、水族館の招待券だって!」
水族館の招待券の文字に、巴の瞳はキラキラ光る。
「水族館、好きでしたもんね」と剣迩。
「スタンプラリー、行っておいで」
うずうずしている巴に、巽が提案する。
「いいの?」
「当日、店は私一人でも大丈夫だよ」
巴は有り難く巽の提案にのる。
「ありがとう。美咲を誘って行こう!剣ちゃんも一緒に行かない?」
「今年は……」
剣迩が口を開くと同時に、店の扉が開く。
「「いらっしゃい」」
巽と巴のダブルサウンド。
「はい。今日は撫子」
来たのは海だった。巽に軽く会釈し、巴に撫子を渡す。控えめな桃色の撫子。
「ありがとうございます。ご注文は?」
「本日のおすすめで!」
「かしこまりました」
いつも通りの注文に、巴は小さく笑う。
“本日のおすすめ”は、巽特製・ブレンドコーヒーとティラミス。
「よっ!」
「どうも」
「夏至祭りか」
海が剣迩の隣に座ると、夏至祭りのパンフレットが目にとまる。
「黒崎君。フローライトは何をするんだい?」
巽がコーヒー豆を挽きながら海に聞く。
「前日までに、フラワーボールという花飾りを作って、前日に電燈にそれを飾りつけます」
「祭りのためとなると、たくさん仕入れないといけないですね」
剣迩は、夏至祭りの会場の広さを思い浮かべる。
「そうなんだ。今から段取りで忙しいよ」
「でも、ここに来るのは欠かさないんですね」
剣迩は、海を見てニヤリと笑う。
「ほっとけ」
「お待たせしました。何の話をしていたんですか?」
海の注文のティラミスを、奥で作っていた巴が戻ってきた。
「黒崎さんが、夏至祭りの準備に忙しいのに、金木犀に来るのは、欠かさないって話してたんです」
「木藤!」
余計なことは言うなと、声を荒げる海。
「黒崎さんは、当日も忙しいんですか?」
「いや、そうでもないよ。当日、花の管理はあるけど、スタンプラリーには参加する予定だよ」
「黒崎さんも、スタンプラリーに参加するんですか?」
「スタンプラリー、参加するよ。楽しそうだからね」
海はティラミスとブレンドコーヒーにご満悦の様子。
「巴ちゃんは?」
「もちろん参加です。水族館の招待券がかかってますからね!」と意気込み巴。
「じゃあ、木藤も一緒なんだ?」
「あっ!剣ちゃん、さっき何か言いかけたよね?ごめんね……」
「謝るのは僕の方ですよ。今年は一緒に行く子がいて、巴ちゃんと一緒に行かないんです」
「そうなよだ!誰と行くの?」
「それは……」
「ガールフレンドかな?」
珍しく言い淀む剣迩に、巽が話しやすいように促す。
「え!!どんなの子?」
剣迩は真琴のことを、ぽつりぽつりと話始めた。隠すことなく、分かりやいように言葉を紡ぐ。
「そうだったんだ!今度、連れておいでよ」
「木藤って、特定の子をつくるように見えないから、真琴ちゃんに会うのが楽しみだ」
剣迩の話を聞いて、巴は嬉々として海はニヤニヤしながら剣迩をみる。冷やかされるのは目に見えている剣迩は、海にだけは会わせたくないと思った。
「今度出すコーヒーの試作品だ。二人とも味見してくれないか?」
三人のやりとりを聞いていた巽は、試作品のコーヒーを作っていた。
「ありがとうございます」
二人は、試作品のコーヒーを一口飲む。口の中に黒豆の味か広がる。
「黒豆ですか?」
「木藤君はどうだね?」
「西都にはない味ですね」
少々、納得のいかない顔の剣迩。
「西都の人にも楽しめる、東都素材のコーヒーを考えていてね。木藤君の反応を見ると、まだまだ改良の余地がありそうだね」
巽は次は何を変えたらいいのかと、何が足りないのかと、剣迩と話始めた。
「ところで、巴ちゃん。水族館、気合い入れるほど好き?」
「はい。大好きです!」
満面の笑みで答える巴。
「そうなんだ。じゃあ、スタンプラリーで競争しない?どちらが先にゴールするか」
「のぞむところです!」
海からの突然の提案、巴は快諾した。
「約束ね」
海は、青いうみの様に静かに笑う。




