4話
初夏の午後、ツバメが飛び交う晴れた空はとても澄んでいる。
「こんにちは。夏至祭りのポスターを、店に貼ってくれないかい?」
「あぁ、そんな時期ですか」
巽がコーヒー豆を挽いているところに、町会長がやって来た。外仕事をしているせいか、褐色の肌に程よい筋肉のついた体つきで、年齢を感じさせない人である。静かだった店内の空気が動く。
「すみませんが、手が離せなくて、カウンターに置いておいてもらえますか?」
コーヒー豆を火で煎っていて手が離せない巽は、町会長にそう頼む。
「じゃあ、置いておくよ。よろしく」
「おや?コーヒーの一杯でも飲んでいけばいいのに」
踵|きびすをかえす町会長を、巽は呼び止める。
「そうしたいんだがね。まだ仕事が残っていてね。またにするよ」
町会長は颯爽と店を後にした。
それと入れ替わりに、剣迩がやってきた。
「いらっしゃい。巴はじきに帰ってくるよ」
「そうですか。カフェ・モカをお願いします」
剣迩は、ふんわりと笑顔で答える。
「かしこまりました」
「夏至祭りですか」
ポスターとパンフレットが、剣迩の目に留まる。
「剣迩君は、行かないのかい?」
パンフレットだけ持って、剣迩はいつもの席に座る。
「行く予定にはなっています」
剣迩は、巽に困ったような笑みをむける。
実は最近、剣迩には気になる女の子がいた。自分でも、特定の子が気になるなんて思ってもみなかったので、剣迩自身も戸惑っていた。
名前は真琴|まこと|。巴と同じ歳で、長い髪を一束に結っている。元気のいい、王子気質な女の子で、髪を結う飾り紐を作っている。
初めて会ったのは、巴へのプレゼンを探すために入った小間物屋。色鮮やかな物に囲まれているのに、真琴はその中に埋もれない存在感があった。
女の子達に合う紐をアドバイスしているその姿だけでも、自分の周りの子達(巴を除いて)とは、また違う子だと剣迩は思った。
最初はそんな存在感に目を惹かれ、気まぐれの興味本位で話しかけてみた。
「女の子達の髪飾りを見立てるの、楽しそうですね」
「ときめいてキラキラしている女の子達を見ているのが、楽しいんです」
真琴の笑顔は朝顔のようだった。気が利くのと、女の子ながらにして王子気質が相まって、彼女は女の子達に人気があった。
いつの間にか、ときたま寄って話をするのが剣迩の習慣になっていた。
これでは黒崎さんと同じだなと、剣迩は自身に苦笑する。
「木藤さんは、女の子達がほっとかないタイプの人ね」
気兼ねなく話ができるようになったある日、真琴はそんなことを言った。
「そんなことないですよ?真琴さんこそ、可愛いですよ」
「え?」
剣迩がそう言って、簪|かんざし|を真琴の漆黒の髪に挿せば、真琴の顔はみるみる紅くなり、言われ慣れない言葉に固まってしまった。
どうやら、真琴は自分の色恋沙汰には鈍いらしい。そんな彼女だから、剣迩は一緒にいたいと思った。
だから、思いきって夏至祭りに誘ってみようと、金木犀に行く前に小間物屋に寄ってみた。
「もうじき、夏至祭りがあるんですが、一緒にいきませをんか?」
「え?私が木藤さんと?」
髪結いの紐を結ぶ真琴の手が止まる。
「はい」
「でも……」
剣迩なら、他の女の子からの誘いの一つや二つあるんじゃないかと、真琴は言う。こんなときでも、他の女の子達のことを考えるのかと、彼女らしさに剣迩は苦笑する。
「僕が、真琴さんと一緒に行きたいんです」
剣迩がさらに押してみれば、真琴は「それなら……」と承諾した。
その返事は、しぶしぶと言った感じではなく、どこか嬉しそうに見えた。




