幕
「ここは?」
そうだ。海に会いに行き、写真を見つけて、強い頭痛に襲われたんだと、巴は思い出す。今は、あの痛みが嘘のように、すっきりしていた。
「巴」
巽が名を呼ぶと、巴はゆっくりと起き上がり、その場にいる面々を確認した。
「大丈夫?」
巴は美咲に、うなずいて答える。
「剣ちゃんも来てくれたんだ」
「当たり前です」
心外だどばかりの剣迩に、巴はにっこり笑う。
「海」
巴は海に、泣きそうな顔で笑む。
「え?今“海”って」
いち早く巴の変化に気がついたのは美咲。巽と剣迩は、目を見張る。
「まさか……」
「本当に?」
海だけが何も言えずに、ただ巴を見つめていた。
「ごめんなさい。私、海のこと忘れていた」
海を見つめる瞳から、大粒の涙が零れる。泣き出してしまった巴を美咲がなだめる。海がどんなに辛かったか、そう思うと涙は枯れることはない。
「巴」
海が近づけば、美咲はその場を海へと譲る。海がそっと抱きしめれば、巴の華奢な体はビクッと強張る。
「ごめ……ん…な…さい」
「巴」
「ご…めん」
「巴、もういいから」
泣きながら謝り続ける巴に、海は優しく呼びかける。
巴の緊急検査の後の桧垣の話では、脳の一部に今までにない動きが見受けられたが、それがどういうことに繋がるかは、判断できないことだった。
巽達は、そっと病室から廊下に出る。桧垣に報せるのと同時に、しばらく二人きりにさせるため。
「よかった」
美咲は涙を拭いながら言う。
「奇跡ですね」
剣迩は美咲に笑いかける。
「しばらくは、このままにしておこう」
「そうですね。遠回りして行きましょうか」
三人は顔を見合わせ、小さく微笑みながら歩き出した。
海は巴が泣きやむまで、ただただ抱きしめていた。
「海」
「ん?」
落ち着いたのか、巴は海を呼ぶ。海は抱きしめていた腕を緩めた。
「ずっと待っていてくれて、ありがとう。それと……」
「それと?」
「大好きです。これからも一緒にいてください」
朝露の濡れて開く花のような笑顔を海に贈る。今までの感謝と、先日の海からの告白の返事。
海は、もう一度巴を抱きしめる。
窓の外の、合歓の花に黒揚羽蝶が舞い降りる。




