20話
「親方!」
巴を見送り、注文の品を作っていた親方の耳に海の声が届く。その尋常でない声に二階に駆けつける。
「どうした!?」
「救急車をお願いします!あと、マスターに連絡を!」
海の腕の中で、まるで眠っているような巴。
「何があった?」
「俺が雑記帳にはさんであった写真を見てしまったみたいで、頭を押さえたまま気を失いました」
「わかった。待ってろ」
親方は店に戻り、救急車をよんでから、金木犀に連絡した。
「はい。金木犀です」
「マスター、巴ちゃんが倒れた」
「え!」
穏やかだった巽の声色が変わる。
「ほら、あっただろう?前に黒崎と巴ちゃんが水族館で撮った写真。どうも何かの拍子に、巴ちゃんが見ちまったらしいんだ」
巽は自室にしまってある写真を思い出す。巴が混乱しないようにと、海と相談して巽が預かることにした、巴の大事な写真。
「今、救急車をよんで、病院に運ぶつもりだ」
「わかった。主治医は藤野病院にいる。しばらく頼む」
「あぁ」
電話を切ってほどなくすると、救急車が到着。親方は、救急隊員を二階へ誘導する。
「藤野病院に、彼女の主治医がいます」
「わかりました。そちらに運びましょう」
一通り確認して、巴は救急に運びこまれ、海は付き添う前に親方を振り返った。
「親方、ありがとうございます」
「いいから、ついててやんな」
「はい」
海も救急車に乗った。
病院に到着すると、主治医の桧垣が待っていた。しばらくすると、巽や美咲、剣迩も到着した。
「脳の検査をします。皆さんは待っていてください」
桧垣は救急車から病院のベッドに移された巴と共に、病院の奥へと姿を消した。
「黒崎君」
巽に呼ばれ、ずっと巴を見送っていた海は、振り向き深々と頭を下げた。
「すみません。俺の不注意で……」
「君のせいではないよ。それにもしかしたら、記憶が戻るかもしれない」
「え?」
巽の思いもしない言葉に、海は顔をあげた。
「前にね、先生が言っていたの。何かのきっかけで記憶が戻ることがあるって。きっと、巴にとっていい機会なのかもしれないって」
美咲は、海が血が滲むほど強く握っている手を、そっと解いていく。
「だから、それに賭けようじゃないですか」
剣迩が海にそう言えば、海はこくりと頷く。




