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牡丹の花束  作者: 柊 さつき
18/22

17話

帰り道は、渋滞にはまった。東都国では車はまだまだ多い方ではないのだが、ときたま渋滞が発生する。夏至が過ぎると、ほんの少しづつ日暮れが早くなる。街に明かりが燈り始める。

「楽しかった?」

ハンドルを握り、前を見たまま海が聞く。結局、海と手を繋いだ巴が、何か思い出すということはなかった。

「楽しかったです!誘ってくれて、ありがとうございました」

満面 の笑みで答える巴。海は運転しているため、前を見たままだが、喜んでいることはよく分かった。

渋滞を抜け、車はいつもの町に着いく。金木犀の前で車を停める。

海は意を決して、大きく一呼吸する。

「巴ちゃん」

「はい」

巴はシートベルトを外し、改まった声色の海に向き直る。

「好きだ。俺と一緒にいてほしい」

「え?」

思いがけない言葉に、巴の思考はうまく働かない。

「……のに?」

「ん?」

海を見つめたまま、ようやく巴から出た言葉。

「黒崎さんのこと、思い出せてないのに?」

(私は、貴方に辛い思いをさせているのに)

巴の中で、次々と色々な思いが湧き上がる。その思いは、言葉にならず、大粒の涙となってこぼれ落ちる。

そんな巴に海は、優しく話しはじめる。

「君に、記憶が戻らなかったとしても、俺が憶えているから、君のことが大切だから、傍にいたいと思ったんだ」

「黒崎さんが憶えている事って……」

「君と俺のこと」

巴も何となく感じていた。でも、それは自分の思い違いだと思っていた。

「辛かったでしょ?」

濡れた瞳のまま海を見つめる。

「確かに辛かったよ?辛すぎて逃げることも考えた。でも、気持ちは変わらなかった」

「ありがとう……」

巴の心に、海の全ての言葉が染みわたる。

「私、黒崎さんのこと……」

思いを返そうとした巴に、海は自分の唇に人差し指をたてて“その先は言わないで”と示す。

「でも……」

「今はまだ言わないで?落ち着いたら、これをつけて、俺に返事を聞かせて」

“これ”と、差し出された長方形の小箱。巴は涙をぬぐい受け取る。

「開けてみて」

言われるがまま、リボンで結ってある綺麗な小箱を開けていく。中からは、水族館で巴が諦めたペンダントが入っていた。

「これ、さっきの……」

「そう。似合っていたから」

驚き海を見る巴。そして、まだ潤んだままの瞳で微笑んだ。

「本当に、ありがとう」

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