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牡丹の花束  作者: 柊 さつき
16/22

15話

水族館の敷地内にあるCafe・マーメードは、海に近い温室のようなテラスのある落ち着いた雰囲気の店。ケーキの評判がいい。

巴はアップルパイとアッサムの紅茶。海はレモンパイとブレンドコーヒーを、それぞれ頼んだ。

「ここの“おすすめ”にはしないんですか?」

いつも金木犀で”本日のおすすめ“しか頼まない海だから、巴は不思議に感じて思わず聞いた。

「金木犀だから頼むんだよ」

「金木犀だから?」

「巴ちゃんの作ったものだから、安心して頼める」

「黒崎さんは、誉め上手ですね」

いつもの冗談だと思って返事をするが、海は真剣な眼差しで巴を見ていた。

「本当だよ」

「……っ」

たった一言だけなのに、それだけで巴は何も言えなくなってしまった。自分の知らない海の真剣な瞳は、巴の心臓をうるさくさせる。

(何だろう?どうしてこんなに波立つんだろう?)

いくらか考えても答えは見つからない。

「お待たせしました」

店員の声で2人の沈黙は破られた。テーブルには、注文したケーキと飲み物が並べられる。

「ごゆっくりどうぞ」

店員を見送り、巴はそっと海を見る。海は、まるで先程のことがなかったかのようにいつもの海に戻っていた。

「俺の顔に、何かついてる?」

そう言われて、巴は自分が海を見つめていたことに、はっとする。


休憩の後は、まだ見ていない場所をまわる。螺旋階段のような通路。

巴は先程の海の様子が気になって、午前中のようには楽しめなかった。

(参ったな。困らせるつもりはなかったんだけど……。無理もないか)

巴の様子を見て、海はどうしたものかと考える。

一つの水槽に、東都の南に位置する水族館には珍しい、北からのお客が来ていた。クリオネだ。その水槽の前で足をとめて、巴がぽつりと話し出した。

「いつだったか。北の方では、クリオネが駄菓子屋さんにある、丸くびの容器に入れられているとききました」

「天然記念物を、そんな扱いしていいのかな……」

「北では、クリオネがいるのが“当たり前”だから、生活の営みの一部みたいになっているんですね」

巴は海が眉をひそめているのを見て、クスリと笑う。そして、水槽に目を戻して「まだまだ知らないことが、たくさんあるんですね」と付け足した。

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