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牡丹の花束  作者: 柊 さつき
15/22

14話

ペンギンの水槽の前から、巴はなかなか動かない。よちよちと歩いているのから、水中を泳いでいるのまで、ペンギンたちは、思い思いに過ごしている。

ちょうど近くに長椅子があったので、2人は並んで座る。

「何度来ても、飽きないなんて変ですかね」

ペンギンに目を向けたまま、巴は言う。

「大丈夫だよ」

海は小さく笑う。

「ペンギン、好き?」

「はい。陸にいるときと、海の中で動いているときの全く違う動きが好きなんです」

それにと、巴は付け足す。

「それに、ペンギンを見ていると、何か思い出せそうで……」

「そうなんだ」

2人はしばらく、ペンギンを眺めていた。


「そろそろ、休憩しようか」

「え?あっ、もうこんな時間……」

入館してから、時間を忘れて楽しんでいたらしい。時計は、午後1時をつげる。

「ごめんなさい。時間を気にしていなかった」

「気にすることはないよ。楽しいから大丈夫」

海は穏やかに、しゅんとしている巴の頭を撫でる。

(あれ?)

巴は先ほどまで、忘れていた感覚を思い出し、ぱっと海を見上げる。

「どうした?」

「あっ、いえ……」

目の前には、不思議そうな顔をした海がいる。自分が今何を感じたんだろうと巴は思う。

「何か思い出した?」

巴はあやふやな感覚を海に伝えた。

「黒崎さんに、手を引かれて水族館に入ったときも、今も、不思議な感覚になったんです」

ゆっくりと歩きながら話す。

「どんな感覚?」

海は巴が話しやすいように優しく聞くと、巴ははにかみながら、「懐かしいなぁって思ったんです」と言う。海は立ち止まる。

(巴自身は、忘れてしまっているけど、心や身体が憶えている。いっそ話してしまおうか……)

「黒崎さん?」

海はそんな焦燥感に駆られたが、ぐっと耐え、そんな思いを打ち消した。

「何でもないよ。少し前進だね」

「はい」

満面の笑みの巴に、焦りを悟られないように、海は歩きだす。

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