14話
ペンギンの水槽の前から、巴はなかなか動かない。よちよちと歩いているのから、水中を泳いでいるのまで、ペンギンたちは、思い思いに過ごしている。
ちょうど近くに長椅子があったので、2人は並んで座る。
「何度来ても、飽きないなんて変ですかね」
ペンギンに目を向けたまま、巴は言う。
「大丈夫だよ」
海は小さく笑う。
「ペンギン、好き?」
「はい。陸にいるときと、海の中で動いているときの全く違う動きが好きなんです」
それにと、巴は付け足す。
「それに、ペンギンを見ていると、何か思い出せそうで……」
「そうなんだ」
2人はしばらく、ペンギンを眺めていた。
「そろそろ、休憩しようか」
「え?あっ、もうこんな時間……」
入館してから、時間を忘れて楽しんでいたらしい。時計は、午後1時をつげる。
「ごめんなさい。時間を気にしていなかった」
「気にすることはないよ。楽しいから大丈夫」
海は穏やかに、しゅんとしている巴の頭を撫でる。
(あれ?)
巴は先ほどまで、忘れていた感覚を思い出し、ぱっと海を見上げる。
「どうした?」
「あっ、いえ……」
目の前には、不思議そうな顔をした海がいる。自分が今何を感じたんだろうと巴は思う。
「何か思い出した?」
巴はあやふやな感覚を海に伝えた。
「黒崎さんに、手を引かれて水族館に入ったときも、今も、不思議な感覚になったんです」
ゆっくりと歩きながら話す。
「どんな感覚?」
海は巴が話しやすいように優しく聞くと、巴ははにかみながら、「懐かしいなぁって思ったんです」と言う。海は立ち止まる。
(巴自身は、忘れてしまっているけど、心や身体が憶えている。いっそ話してしまおうか……)
「黒崎さん?」
海はそんな焦燥感に駆られたが、ぐっと耐え、そんな思いを打ち消した。
「何でもないよ。少し前進だね」
「はい」
満面の笑みの巴に、焦りを悟られないように、海は歩きだす。




