祝いの日
騒がしいほどの歓声が聞こえる。
今日この日のために集まった人々が、一目その姿を見ようと顔を上げていた。
――そんな時、ある部屋の中。
「ね、ねぇ。やっぱり急じゃ……」
鮮やかなドレスに身を包んだ少女は肩越しに振り返る。
白い布をたっぷりと使い、流れるようなフリルに所々あしらわれた小さな花。胸元には控えめながらも細やかな装飾が施されており、残る首飾りを持った侍女は少女の言葉に微笑んだ。
可愛らしいそのドレスに身を包んだ彼女は、まさしく純白であった。
「そんなことはありませんよ。皆さん、この日を楽しみにしておりました」
「で、でも」
「大丈夫です。胸をお張りください」
最後に息を呑むほど優美な蒼い石がはめ込まれた首飾りを少女にかけ、侍女は嬉しそうに彼女を見つめた。
「お綺麗ですよ」
「……ありがとう」
やはりどこか納得していないのか、それとも恥ずかしいのか俯く少女に侍女は苦笑する。
以前自信がないとぼやいていた少女は、普通のそれとまったく変わらないように思えた。けれど、今用意されたドレスを身にまとうその姿は――。
侍女は優しく、敬意を込めて少女の名を呼ぶ。
戸惑いがちに顔を上げたその目を、侍女はまっすぐ見つめた。
「あなたにお仕えすることができて、本当に幸せでした。今まで、ありがとうございました。どうかお幸せになってください」
そう言って、小さく頭を垂れる。
大切な相手と、これから守るべき人たちに会いに行く主人に感謝を込めて。
「ちょ、やめてよっ! お別れじゃないんだから!」
それを聞き、ぎょっとして慌てて手を横に振る少女に侍女はそうですねと笑った。
「――では、参りましょうか」
「……うん」
きゅっと口元を結び、顔を上げた主人に思わずそう硬くならずにと言いそうになったが、言っても無駄だろうと侍女は終始微笑みながら口をつぐんだ。
扉を開け、少女を促す。
「私もね、侍女があなたでよかった。ありがとう」
歓声が聞こえる。
一歩近づくにつれ、圧倒されるほどのそれに掻き消される前、少女はふわりと微笑んでそう告げた。
それに侍女が何かを言う前に、少女は喧騒の中に飛び込んだ。
一際、歓声が大きくなる。
そしてこれ以上は立ち入れないところまで侍女は前に進むと、そこには大切な、これから同じ道を歩いていく相手の手を取り恥ずかしそうに――けれど嬉しそうに微笑む姿があった。
そして二人は何かに気づき、テラスのような場所を囲む柵に近づいて下を見下ろし――驚いたように目を見開いた。
二人で顔を見合わせ、嬉しそうに顔をほころばせる。
少女は手に持っていた花束のリボンを解き、ばらばらとなったそれを宙に投げた。
ひらりひらりと舞う花々は、色鮮やかに空を飛ぶ。
それはまるで、誰かを祝福しているかのように。
少女は人々に隠れるようにして佇む二人の影を見つめ、小さく囁いた。
誰にも聞こえない、けれど彼らには届いたであろう祝福の言葉を。




