<12>
母と父が死んだことは、すぐに城の者に知れ渡った。
最初に見つけた父の側近である男は血だまりの中に佇む少年にぎょっとし、すぐに駆けつけ息絶えている二人に視線をやり、人を呼んだ。
駆けつけた人らはそれぞれに色んな反応をし、城の中に暗殺者がいる――すぐに捕らえろ、動揺したような声がウィルの耳に届く。けれど、誰一人彼の身に怪我はなかったのかと問うだけで、ウィルを疑う者などいなかった。
まだ十歳ということもあったのだろう。
「ウィル様。今はお部屋にお戻り下さい」
促されるままに、ウィルは自室へと戻る。
虚ろな彼の瞳が何も映していないと知っている者は誰もいなかった。
――あとはすべて、城内にいる兵士らによって片付けられた。
そして国王と王妃を暗殺した者はいまだ見つからないと聞いた。目撃者もいなく、ただ知っているであろうとされるウィルには何度か父の側近が部屋を訪れたが、終始どこかぼんやりとしている彼に皆は目の前で両親が殺されてるのを見たのだろうから当然だと心を痛めた。
それからは事情を聞きに来る者は減り、代わりに彼に隠れて暗殺者を探しているようだった。
ウィルはのろのろと顔をあげる。
いまだに目の前が真っ赤に染まっているような気がした。
父は、驚いただけで特に抵抗はしなかったように感じる。たかが十歳のウィルを押さえつけるなど、父にとっては造作もないことだろう。
けれど、そうはしなかった。
なぜかはわからない。ただ、父は母に寄り添うように死んでいった。
「母上……」
殺してくれと叫ぶ声が耳から離れない。泣き叫んで荒れ狂う姿も、脳裏に焼きついて離れなかった。
ウィルは毎日をただ機械的に繰り返し、窓辺に置かれている椅子に座ってただぼんやりと外を見て過ごした。それを見て、さらに胸を痛める者たちがいたことなど彼は知らない。
ただ、二人を殺したのが自分だということを知られても別にいいと感じた。
自分から名乗り出ようかとも考えたが、ウィルにとって母や父を殺したことを特に悪いことだとは思えず、結局名乗りを上げることはなかった。
――犯人がわからず時が過ぎて父と母の墓がたてられた後、当然のように王の座はウィルにうつった。




